労務関係

February 12, 2018

プレップ労働法 第5版 (プレップシリーズ) /森戸 英幸 (著)

先のエントリに続いて,仕入れた本の感想のメモ。

実務に出るとすぐに直面することが予想されることもあって,労働法と倒産法は修習中に,最低限の手がかりを自分の中に築いて置かないと,という問題意識もあり,知識の更新も兼ねて,2版,3版と読んだこの本を。まあ,この一冊だけでは不足なので,もうちょっと何かをする必要があるけど。

5版を重ねても,(少なくとも)見た目上は,それほど肥大化もせず,読みやすさ,とっつきやすさも変わらないので,広大な労働法の分野に足を踏み入れる際の最初の一冊としては,引き続き有用だろうと思う。細かく仕込まれているネタに笑わされるのも相変わらずだし(もっとも,そろそろ風化しているのではないかと思われるネタもあるので,次の改訂では,そのあたりの更新も必要かもしれない)。

今までは気にならなかったものの,今回始めて疑問に思った点を一点メモしておく(単にこちらの不勉強ゆえのことかもしれないが…)。

労働法分野における,通達とかの重要性,役目とかについても一言言及があってもよかったのではないかという点が気になった。まあ,通達なので,外部的な拘束力はないはずだが,ある意味行政の規制の及ぶ分野で,行政庁による規制行為には及ぶわけだし,解釈例規についても,外部にも事実上その効力が及ぶものであるわけで,しかもそのあたりについても言及があるわけだから,何故そういう話になるのかについても何らかの説明があったほうが良かったのではないかと感じた次第。



気になっていたので、他の本と一緒に丸沼で買って、一気に読んだ。企業法務の方々であれば読んでおいて損のない一冊ではなかろうか。

労務系の法務は、企業内部では法務というよりも人事のマターで、法務がなかなか関与しにくいというのが個人的な印象。それは情報管理上の制約とか、他の従業員とのバランス面での考慮(よって他の社員の待遇を知らないと対応は無理だが、それを知っているのは人事のみというのが通常だろう)とかゆえのことと感じていて、やむをえないところだろうと思っている。転職して、外資系企業に来て、今までよりはその種の案件に関与する(それでも関与の仕方は受身的なところが強いが)ようになったものの、人事との距離感はつかみにくいし、人事という部署がどういうことを考えているのか良くわからないような気がしている。
 
この本を読むと、企業側の人事を取り巻く状況の変化(働き方の多様化とか、いわゆる「グローバル化」への対応とか、高齢化とか…)や、それに対する人事側の対応の考え方、みたいなものの一端を伺うことができて、検証が出来ているわけではないものの、多少なりとも人事側の視点を理解しやすくなるのではないか、という気がした。

個別の内容について、個人的に特に印象に残ったところをいくつかあげると次のようなところ。
  • 組合が協調路線を取りすぎて、戦闘的になりたくてもなれなくなっているし、企業人事側も、戦闘的な組合の姿勢を受けて立つ経験がなく、そういうのに対応するノウハウがないために、新しいタイプの労働問題への対応や海外での組合対応がうまくできていないというのは、納得。
  • 産業医さんとの鼎談では、産業医さんとお話をする機会が今のところないこともあり、産業医さんが労使関係も踏まえて、どういう話のもって行き方をして、会社の労務環境を改善するか、という視点が新鮮だった。
  • コマツの方との鼎談では、人事のグローバル化と、ローカル化の棲み分けについての考え方が興味深かった。
 

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dtk1970 at 09:00|PermalinkComments(0)

September 30, 2013

セミナー:メンタルヘルス対応

たまには、きちんとした法務らしいことを書いてみようかと(おいおい)。

当日の昼にリマインダーがPC上にでて思い出す、という危なっかしい状態だったけど、経営法友会のセミナーに出席。雇用者側の弁護士を長らくされている先生が、従業員のメンタルヘルスと労務対応、というような感じの内容を解説。

特に気になったところをメモしてみると次のような感じか。
  • 精神障害の労災認定基準が平成23年12月に制定されたが(資料)、迅速な労災認定を可能にするために、従前の「判断指針」よりも、個別具体的に規定が設けられている。ただし、その内容については、画一的に運用された場合、労働者にとって労災認定が得られやすい内容となっている。
  • 労災認定が得られやすいことそれ自体は、必ずしも問題というわけではないが、労災認定と会社に対する安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求とが本来は別の問題であるにも拘らず、事実上リンクしているために、雇用者側にとっては労災認定がなされることが(表現としては問題があるかもしれないが)リスクとなりうる。裁判所も、労災認定基準に拘束されないはずなのに、それを尊重する傾向がある。
  • 長時間労働対策という面では、適正な把握と長時間労働の抑制が重要。前者については、前記の労災認定基準の中でも特に重視されていることもあり、労務時間管理については、いわゆる「適正把握基準」があることと合わせ考えると、自己申告ベースよりもタイムレコーダーなどにより客観的な形で行う方が安全だろう。
  • 最近の判例・裁判例を見る限り、裁判所も労災認定基準は重視しているし、加えて、裁判所は、メンタルヘルス対策及び労働時間管理の文脈では、労働者に対する会社側の積極的な関与を求めているとも理解できる(日本HP事件など:従業員のプライバシー保護との整合性との関係で疑問が残るが)。

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dtk1970 at 22:32|PermalinkComments(0)

August 14, 2013

アリコジャパンの競業避止義務違反事件

アリコジャパンの競業避止義務違反が争われた裁判例を読んでみたので感想などをメモ。地裁では競業避止条項違反による退職金の不支給についての条項の有効性が否定されたが、高裁でも、その判断が維持されて控訴棄却となっていた。

(外資系企業の労務関係の事件というと、どうしても気になってしまうのだった...。)




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dtk1970 at 20:31|PermalinkComments(0)

July 12, 2013

企業のための労働実務ガイド1 Q&Aと書式 解雇・退職 /藤本 美枝, 松村 卓治, 江藤 真理子, 栗原 誠二 (編著)


出版記念?の編著者のうちのお一方により経営法友会でのセミナーに出た際に会場で割引販売していて、買ったのだが、ようやく目を通したので感想をメモ。件のセミナーは内容は興味深かったのだけど、ここでネタにしていいのかためらうところがあったので、メモしていなかったのだった。

労務系の実務に関する書籍は、いろいろなところから、一通りの内容をカバーする10冊くらいのシリーズで出ている。どうやら商事法務もそれに伍してシリーズ化する気なのか、 「企業のための労働実務ガイド1」と銘打たれている。解雇・退職に関する部分についてその他のシリーズのものも読んだことがあるけれども、それと比較して、特徴的と思ったのは次の3点。文章も読みやすいので、これらの点について重要と思われる方にとっては良い本なのではないかと思う。
  • 個々の問題への対応に際して必要な書式例まで書かれていること。アドバイスだけで具体的な行動が見えにくいというケースには有用なのではなかろうか。
  • 各章ごとに冒頭に「まとめ」があり、まず全体像をつかんで、それから個別具体的な話に入っていく形になっていること。 その部分(紙の色が異なっていて、区別しやすい)だけを読んで大枠だけをさっと理解するという使い方も出来そう。
  • 外資系事務所の先生方の手によるということもあり、渉外要素のある労働契約への対応などについて言及があること。労働契約上で別の合意をしても、日本での裁判管轄が強制される場合があるのは、不勉強で知らなかった。


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dtk1970 at 20:34|PermalinkComments(0)

July 10, 2013

フォローアップというかなんと言うか。

こちらのエントリのフォローアップというかなんと言うか…。

最高裁の判決が既に最高裁サイトに上がっていた、日本HPの諭旨退職事件だけど、気がつくとその原審の東京高裁判決も出ていた。最近あげられたようだ(他にもいくつか労務系の事件の判決があがっている…)。

最高裁判決よりも事案について詳しく記されていて、最高裁判決を読んでいても不明だったところがわかって興味深い。

後からは何とでも言える、というのは事実だけど、気になった点をいくつかメモしておく。この種の事案に自分が行き会ったときの心構えというと語弊があるかもしれないけど、英語でいうところのLesson Learnedというやつか…。
(なお、当然のことながら、対象会社の方々を非難する意図はないので、万が一ご気分を害されている方がおられれば、あらかじめお詫びする次第です)
  • メンタルヘルス(と思われる)従業員への対応の難しさ:本件では結果的に会社にとっては良い方向に事態が推移しなかったものの、件の従業員の方の上司や人事の方々も悩みながら対応されたのではなかったかと思う。何を言うべきか、何を言ってはならないか、がわかりにくく、そこが今回の結果にいたったのではなかろうかという気がした。
  • 内容が刺激的なことでも言うべきことは言う:件の従業員の方から、休職や退職についての問い合わせを受けたにも関わらず、上司の方が、よかれと思って問い合わせに返答することを避けたということのようだけど、休職とかが長期化すると退職につながる以上、そういう質問に回答することが件の従業員の方にとって刺激的になるかもしれないとしても、やはり、何らかの方法で説明をしておくべきだったのだろう。むしろ伝え方を考えないといけないし、上司の方が説明しにくいのであれば、それこそ人事が淡々と説明すべきだったのかもしれない。Due Processを踏むという意味で、淡々とやっておくのが重要だろう。
  • 法務と人事の壁:最高裁判決を読んでいても感じたことだが、高裁判決を読んでいても、法務が出てこない。事案の性質上、難しかったのかもしれないが、どこかで法務に相談していれば、こういうことにはならなかったのではないか、と思えてしまう。何らかの「壁」がそういう形での事態の推移を妨げたのではないか、そういうものが、自分の勤務先でもないのか、というところが気になった。



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dtk1970 at 21:23|PermalinkComments(0)

March 07, 2013

某セミナーにて

経営法友会のセミナーだった。セクハラ・パワハラ対応についてのもので、講師はベテランの弁護士さんだった。話がわかりやすく、慣れているという感じで、声も通ったので聴きやすかった。

時間の都合でパワハラに関するお話がメインだったが、次の諸点が特に印象に残った(手元のメモを見ているので、表現は同じではないが)。
  • パワハラとセクハラと一緒にされて論じられるが、アプローチは反対と見るべき。パワハラは違法かどうか疑問の余地があるものの、セクハラはそもそも最初から違法(オフィスに持ち込むべきものではない)と考えるべき。
  • パワハラについては、過度に強調された結果、逆に管理職を萎縮させていることを懸念する。労働契約に基づく労働者に対する指揮命令権はあるし、指導をするのは労働者のパフォーマンスに問題があるからであって、パフォーマンスに問題があるときに、それを是正する指導を管理者がするのは当然のことなのだが。
  • 労働者のパフォーマンスが悪ければ労働契約上の債務不履行ということになり、それが直ちに契約解除を構成するものではないとしても、契約解除、つまり解雇を避ける観点からも、管理者による指導は正当化されるはず。一方で、その指導は、解雇を避け、パフォーマンスをあげるために行うものであるから、解雇につながるような言辞を弄したり(そういうことをいう必要があるなら人事に言わせればよいはず)、相手の人格を非難するような言辞は正当化できない。その範囲で指導することには問題はないはず。


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dtk1970 at 23:59|PermalinkComments(0)