M&A

September 15, 2018

中小企業買収の法務 / 柴田堅太郎 (著)

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いつもお世話になっている柴田先生の単著を,遅ればせながら拝読したので,感想をばメモ。

読み終わるより先に,サインをいただいてしまいました(汗) 。
*二枚目の写真は,某先輩が撮られていたのを借用させていただきました。

柴田先生が,専門のM&Aについて,特に中小企業のM&Aに特化して書かれた本。そして,中小企業と行っても,事業承継型のM&AとベンチャーのM&Aとは,大規模なM&Aとは異なる部分があって,共通する部分もあるものの,異なることもあるということで,それぞれについて分けて解説されている。

既に各所で絶賛されていて,その点については,僕も同意。
個人的には,事業承継型のM&A(のPMI)にしか関与したことがなく,ベンチャーのM&Aについては,関与したことがないのだけど,前半については,如何にもありそうな事例がふんだんに使われていて,「あるある」だなあ,とニヤニヤしながら読んだのでありました。

M&Aにおいては,諸般の制約条件があり,その中には,法律的な問題ではなく,感情論の部分も含まれているけれども,そういう制約条件から生じる諸問題について,完全な解決策が見つからない場合であっても,如何にして,リスクを許容可能な範囲に抑え込むか,安易に破談にならないよう,どうすべきか,ご経験に基づく知恵の一端が開陳されている。書かれている解決策の案の中には,ややリスクの残る場合もあり,そこのあたりをどう考えるかは,個人差があるだろうから,ここまで踏み込めるのは,単著ならではなのかなということも感じた。

また,文章自体の読みやすさ,事例によるわかりやすさに加え,参照文献へのリンクの豊富さも特筆に値するかと思う。巻末にまとめるのではなく,都度,脚注でリンク(URLも含め)されているのも参照しやすさという意味では,大変良いと思います。この本を起点として,更に調べて行くということも容易になるので。

とはいえ,M&Aの「基本形」からは,中小企業ということでの,「捻り」が入っているという側面もあるので,この本をM&Aを学ぶ最初の一冊とするのは,おそらく不適切で,冒頭の参考文献に書かれている二冊(これこれ)あたりを読んでから,本著を読んだほうが,この本の素晴らしさがよりよく堪能できると思う。

あと,僭越ながら,一点だけコメントするなら,諸般の事情で,DDが不十分な範囲でしか行えないということは,ままあるので,その場合,クロージング後PMIの過程で,かつ,最終契約上でクレーム可能な期間がある場合には,その範囲内で,再度DD類似の行為を行って,きちんと調べるよう,弁護士さんたちも,アドバイスされたほうが良いのではないかと思う。慣れていないと,クロージングしてやれやれと思って,その実,DDでの調査が不十分で,相当後になってから…ということも経験したことがないではないので…。PMI周りまではなかなか対応し難いところはあるのでしょうが,その程度のアドバイスはあって然る可きかと…



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dtk1970 at 22:17|PermalinkComments(0)

October 30, 2015

「さよなら」の手前で

某歌をもじったつもりだが…わかるかな、わっかんねーだろーなー(謎)*1

それはさておき、事業再編とか事業部門の閉鎖とかにまつわる業務に拘るときに心がけることをいくつかメモ。まあ、その手の業務に関わることもあって、そんなときに感じたこと、というところ。

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dtk1970 at 23:51|PermalinkComments(2)

February 17, 2015

下町M&A: 中小企業の生き残り戦略 (平凡社新書)/ 川原 愼一 (著)



@overbody_bizlaw先生のつぶやきで見て購入。平易な文章で新書版で長くないこともあって、すぐに読めた。

業績の厳しい中小企業の事業再生の手段としてのM&Aを物語仕立てで解説、というのがざっくりとした概要なんだろう。書いているのは、ご本人も経営していた会社がうまく行かなくなってそこから立ち直ってきたという経歴のコンサルタントの方。

M&Aというと華やかなイメージを持つ人も世の中には居るのかもしれないが、中小企業の場合、事業承継として行う場合にしても、こういう再建の一環として行う場合にしろ、華やかさとは縁遠く、シンドイところが多いのだけど、その一方でこういう局面が必要な企業は多いだろうから、そういう局面で何が重要になるか、を知っておいても損はないのではなかろうか。大手企業であっても買い手側で関わることもあるかもしれないわけで。題材となっている事例(架空だろうけど)は、いくつかの幸運が重なっていると思われるところもあるので、一般化がどこまで出来るのかはやや留保が必要かもしれないけど。

個人的に印象に残ったところを、ネタバレにならない範囲でメモしておくと次のあたりか。
  • まずは、メインバンクに話しをしておくということと、他の金融機関がメインバンクの対応を見ているという辺り。
  • 大口の得意先に、自社を買ってくれないかとダメ元で一度言ってみるという理由とその結果について爾後の交渉での使い方。
  • 債権回収を試みるサービサーとのやりとりのなかで、著者がこのサービサーとの特定調停が行けそう、と感じた瞬間とその理由。



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dtk1970 at 00:18|PermalinkComments(0)

October 27, 2013

仕切り方について

はっしーさんのエントリを見て思いついたなどを。やや長くなったのでエントリの形で失礼します。
*エントリだけを見てのコメントで、件の研究会での資料及びそこで交わされた議論を存じ上げないので、その辺はご留意いただきたく。

もともとの問題提起との関係では、M&Aを事業部門とか企画部門が仕切るのは、個人的にはある意味で当然のことではないかと思っています。その辺の理由として、今までの経験から個人的に感じるのは次のあたり。
  1. そもそも外からの第一報が入ってきたり、内部でそういうことをしようと思い立つのはそれらの部門。一番早く動き出すだろうし、少なくともDD前の段階では一番情報を持っているのではないか。
  2. (事業部門単位での案件の場合)それは収益に対する責任の所在との関係でもそうなってしかるべきか。
  3. また、dealの価格及びdealの可否について実務レベル(⇔機関決定レベル)での判断権を持つことも多いのではないか。
  4. もうひとつ、M&A後の組織改変とかPMIまで睨むとそうならざるを得ない(法務では口が出せない)。
とはいいつつ、逆に、法務が「仕切る」必然性があるとすれば、次のような理由も考えられるのではないかと思います。
  1. dealの契約書について実務レベルで最後に内容についてOKを出すのは法務という可能性も。取引の実体的なところでOKとなっても、それ以外の面でnoをいえる可能性もあるという意味ではそうなるのかもしれず。
    (ただし、ここの部分は外の事務所にDDから一式丸投げという場合には、関係ないかもしれないし、以前つぶやいたように、リソースとの関係で法務が担当出来ない場合は、法務側から外部にお願いすることもあるだろう。)
  2. 意思決定の内容及びその形成過程、ならびに(必要な場合は)決定後の登記にいたるまでの一連の手続きについて、後からその当否を問われたときに、「経営判断の原則」で保護される形になっているかどうか、チェックする必要性があるし、それが出来るのは内部では法務ということになろうかと。こちらは外に投げにくいかもしれない。全部のプロセスについて外から見通すのは無理があるだろうから。
  3. (この部分は某所でこの話をしたときに、諸先輩からご指摘いただいたのだが)、法務以外の部署に関連する分野へのリテラシー及びM&Aの経験が不足しているケース。M&Aが非日常的なイベントという企業も多いだろうし、法務以外の部署で人事異動が頻繁な反面、法務は異動が少なく、経験が蓄積されているというケースもありそうな気がする。そうなると、法務が仕切らないと抜け・落ちが出たり、過去の教訓が伝わらないかもしれない。
今の勤務先(外資)ではそもそも親会社側にM&Aの専門部隊がいるし、法務側でも担当のlawyerがついているので、この種の議論に無縁になってしまったのが、一応メモしてみる。



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dtk1970 at 14:41|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

July 06, 2013

企業内プロフェッショナルのためのM&Aの技術/ 四方藤治 (著)


遅くなったが読み終わったので感想などをメモ。
一言で言うと、事業会社でM&Aに関わる法務担当者にとってはおそらく必読(メーカーであれば間違いなく必須)の一冊。もっとも、一定の知識があることを前提にしているので、いきなり読むのはシンドイだろうが...。(*)

日産で200件以上のM&A案件(ほとんどがクロスオーバー案件)に関わられた著者がM&Aに関する要所について解説するもの。守秘義務の問題があり、具体的な案件に関わる記載は出てこないものの、企業の中でM&Aを取り仕切っていないとかけないような実務上のポイントについての解説が有用。法務、財務、税務、人事、知財、環境などなどの個別の分野に断片化されず、統合的に俯瞰するような形での解説及び外部専門家の起用の仕方についての説明は、おそらく「中の人」でないと書けないであろう。続きを読む

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dtk1970 at 10:48|PermalinkComments(0)