契約法務
April 30, 2019
用意しておくとよい質問について
なんだかよくわからないタイトルですいません。昨夜,「#新人法務パーソンへ」のタグ付きでつぶやいたことのまとめ+αです。
#いただいたコメント(ありがとうございます)を踏まえて,一部加筆した。
契約書の審査依頼という業務は,まあ,企業の法務ではよくある業務なんだけど,文案だけ送りつけられて,見てください,みたいな依頼のされ方をすることが多い。もちろん,それだけで対応可能な場合もあるし,そのほうが楽なのかもしれないけど,法務担当者としては,そこで一旦立ち止まって,依頼元の担当者に依頼の背景事情などについて,質問をしてみても良いのではないかと思うのでありました。
そういうことをする理由として重要と感じているのは,そもそも依頼元が送ってきた契約の内容をどこまで理解しているのか,ということを確認するという意味あい。内容を理解していることを前提に,中身の問題点を指摘して,自社にとっての改善案というか修正案を示せば足りるのか,それとも,そもそも中身を読んでないから,中身を理解してもらうところから始める必要があるのか,いずれかによって契約書の審査の結果の折り返し方は異なってくるだろう。
また,そもそも契約のスキーム自体に問題(個人的な経験の範囲では,税務面で問題が生じることが多かった)があるような場合とかは,契約書の中身を審査する以前に,スキームの組み直しが必要になる場合もある。そういう話には内部調整も含め時間がかかるので,そこの洗い出しは,早めにしておくべきなので,可能であれば,初動のところでそこの可能性は把握したいところ。
では,何を聞くか。契約類型如何に拘らず,汎用性のあるものとして,僕が思いつくのは例えば次のようなもの。この他に契約類型ごごとに定型的に訊くべき内容もあると思う(例えば,NDAで言えば,自社のグループ会社などへの開示が想定されているか。想定されているなら,外部への開示禁止の例外措置としての対応を想定することになるだろう)。ざっくり分類しつつ,挙げてみる。
スキーム自体の理解に関する部分
まあ,こんなところか。この程度のことは,法務担当者としては,訊く癖を付けておくとよいのではないと思う。
ここ一年の間にインハウスの面接を受ける機会があり,ある企業で模擬契約書レビューの面接があったのだけど,その場で,こういうことを訊くことができない候補者が多かった(それをしたこちらは高評価を得た)という話を面接側から聞いた。普段から意識していないと,そういう場でもなかなかやりづらいと思うのでありました。
#いただいたコメント(ありがとうございます)を踏まえて,一部加筆した。
契約書の審査依頼という業務は,まあ,企業の法務ではよくある業務なんだけど,文案だけ送りつけられて,見てください,みたいな依頼のされ方をすることが多い。もちろん,それだけで対応可能な場合もあるし,そのほうが楽なのかもしれないけど,法務担当者としては,そこで一旦立ち止まって,依頼元の担当者に依頼の背景事情などについて,質問をしてみても良いのではないかと思うのでありました。
そういうことをする理由として重要と感じているのは,そもそも依頼元が送ってきた契約の内容をどこまで理解しているのか,ということを確認するという意味あい。内容を理解していることを前提に,中身の問題点を指摘して,自社にとっての改善案というか修正案を示せば足りるのか,それとも,そもそも中身を読んでないから,中身を理解してもらうところから始める必要があるのか,いずれかによって契約書の審査の結果の折り返し方は異なってくるだろう。
また,そもそも契約のスキーム自体に問題(個人的な経験の範囲では,税務面で問題が生じることが多かった)があるような場合とかは,契約書の中身を審査する以前に,スキームの組み直しが必要になる場合もある。そういう話には内部調整も含め時間がかかるので,そこの洗い出しは,早めにしておくべきなので,可能であれば,初動のところでそこの可能性は把握したいところ。
では,何を聞くか。契約類型如何に拘らず,汎用性のあるものとして,僕が思いつくのは例えば次のようなもの。この他に契約類型ごごとに定型的に訊くべき内容もあると思う(例えば,NDAで言えば,自社のグループ会社などへの開示が想定されているか。想定されているなら,外部への開示禁止の例外措置としての対応を想定することになるだろう)。ざっくり分類しつつ,挙げてみる。
スキーム自体の理解に関する部分
- 契約書に出てくる当事者の役割。当事者の名前は冒頭にあることが通常なので,そこだけはざっと見た上で,それぞれが何をするという立て付け(のはず)かの確認
- モノ,情報,カネの流れとその順序。どうやったらこちらがもらうものをもらえるのか,というところをざっくりと。いわゆる商流とか,サプライチェーンも訊ける範囲で。
- 自社の供給するモノ・サービス等の内容と性質。役割とも絡むけど。製品とかに弱い部分があったりするなら,そこは把握しておきたいところ。
- 自社がこの契約を締結することにより,いかなるメリットを享受するのか。メリットはないけどなんとなく,みたいなものについては,そもそも契約締結をすべきではないかもしれない。
- 契約書に出てくる他の当事者との取引歴。付き合いの度合いで,取れるリスクの度合いも異なるのはある意味当然のところだし,時として,同じ相手と締結している他の契約書との整合性を考える必要もある。なので,ここの把握は必要。できれば,当該相手とのトラブルの有無も訊けると,リスクの発現の仕方の有り様を考えるうえで有用。
- 他の当事者との間の力関係。いろいろ修正意見を述べても,力関係で押し切られるなら,むしろ,覚悟すべきリスクの指摘と自社で取りうる回避策・軽減策を考える方に注力すべきかもしれない。その見極めのための材料として重要となることもある。
- 契約書の修正余地については,力関係の反映ではあるけど,特にリクエストがあるかも訊くほうがよい。この辺は後で出てくる交渉の状況とも関係する。今更直せないというようなタイミングで依頼が来た場合は,苦言を呈したほうが良い場合もあるだろう。
時間軸
依頼者本人との関係- 直近の次のアクション。依頼元にいつまでに返事をかえすかの締切について,正味の見極めのために必要。場合によっては,次のアクションの方を遅らせるという手を講じないといけないこともあるかもしれないから把握しておきたいところ。
- この契約書の締結及び履行完了前後に何かあるか。短期的な話というよりも長期的なお話。例えば,一旦NDAを取り交わして,情報をもらってフィージビリティ・スタディをして,共同開発の可能性を探って,行けそうなら共同開発を,というような段階的なお話の場合は,そのステップも踏まえて最初のNDAから見ておくほうが良いわけで,単体の契約書だけを考えるだけでは不十分なお話というのも往々にしてある。そういう全体像を把握することは重要。
- 検討対象の契約書の締結交渉のステータスも大事。修正余地とかにも絡むけど。
- 本人が特に気になるところ,見てほしいと思っているところ。現場を直接知っている人間の目から見て,懸念している点があれば,聞いておくのも良いと思う。
まあ,こんなところか。この程度のことは,法務担当者としては,訊く癖を付けておくとよいのではないと思う。
ここ一年の間にインハウスの面接を受ける機会があり,ある企業で模擬契約書レビューの面接があったのだけど,その場で,こういうことを訊くことができない候補者が多かった(それをしたこちらは高評価を得た)という話を面接側から聞いた。普段から意識していないと,そういう場でもなかなかやりづらいと思うのでありました。
dtk1970 at 14:55|Permalink│Comments(0)
April 12, 2019
【改訂新版】良いウェブサービスを支える 「利用規約」の作り方 / 雨宮 美季 (著), 片岡 玄一 (著), 橋詰 卓司 (著)
著者の方々からご恵投いただきました。ありがとうございましたm(_ _)m。6年前に出たものの改訂版。
最初に著者紹介のところを見て,橋詰さんの紹介のところにマンサバが出ていないのを見るのは,諸々感慨深い(それと細かいことだが,雨宮先生のところの「司法研修中」は「司法修習中」ではなかろうか)。
それはさておき,法務とかでない方でも読める難易度(厚さや文体も含め)で,日本でサービスを主に国内居住者に提供しようとする側であれば,これを読んでおけば大怪我はしないところに収めていて,アドバイスも現場からも理解の得られそうな範囲で書かれていて有用度は高いのではないかと感じる。それ故にあちこちで出ている高評価も頷けるところ。
…とだけ書いても面白くないので,以下,細かいけど(前記の点は左右しないレベル),こちらが気になった点,疑問に思った点をメモ。
- 海外からサービスを利用するユーザーとの関係で,利用規約上で準拠法を日本法,裁判管轄を日本の裁判所で,というのは,アイデアとしてはわからないではない。ユーザーが他所の国に提訴して,サービス提供側が他の国で裁判に巻き込まれたり,その際に他の国の法での裁判となることを避けるという意味ではメリットがあるのは否定しない。でも,逆の場合は?と疑問。適法に提訴できても,送達ができない可能性があり,そうなると,その場合には問題が生じるのではないか。そういう場合を想定する必要がないという判断があるのかもしれないけど,そのあたりの説明がないので,想像は付くものの,疑問は残った。
- 雛形がDLの可能という表記が中程にしか無いのはいまいち親切ではないような気がした。雛形集の章の表紙?の部分に記載というだけではなく,表紙脇とかにも記載があってもよかったのではないか。まあ,迷ったらぐぐるとサポートベージが出てくるだろうから,良いのかもしれないけれど。
- まずこの一冊,として紐解いてもらえるように,細かい話とかは捨象してあるように見えたのだけど,その分,この本だけで足りなくなった場合の対応の仕方の水先案内のようなものもあるとよかったのかもしれない。弁護士さんへの相談の仕方については,「おわりに」に書いてある内容が参考になるが,それ以外にも言及するべき話はあるだろうし,この先に紐解くべき分野ごとの書物,サイトの案内があってもよかったのではないかと思う。
- これは,こちらの勉強不足ゆえのことかもしれないけど,不当条項規制との関係では,B2Cが前提となっているからか,消費者契約法の話に終止していて,債権法改正の定形約款の規制の話がでてこなかったような気がしたんだけど,それでいいのだろうか?商事法務の村松=松尾本のQ43を消費者契約法10条と改正民法548条の2第2項とは適用範囲や適用時の考慮要素も異なり,適用の先後関係もなく,両者が選択的に主張される可能性もあるようなので,B2Cであっても消費者契約法10条だけみておけば良いという話ではないのではないように思うのだけど…。
dtk1970 at 22:23|Permalink│Comments(3)
February 23, 2019
儀式と言えるのか?
さて。昨日の某宴会では,打ち上げ参加者については,併催の勉強会を適切に野次ることが想定されていたようだった。しかるに,うまくできなかった。野次るのにはスキルと人徳がいるところ,両者(特に後者)が欠けていたためと思われる。悔しいので,一点についてだけ(他にも野次りたいことはあったが色々考えてネットに書くのはやめておく),その後に考えたこと等も含めつつ,エントリを書いてみようかと。以前書いたこととかぶるかもしれないけど,その点はご容赦あれ。
*以下については,@keibunibu先輩からのご示唆を踏まえております。ありがとうございますm(_ _)m
ーー
会場で,業務効率化の一環として,@kataxさんが,NDAなんてセレモニーだから内容吟味する時間をかけないという趣旨のコメントをされていた*1。その種の物言いはよく聴くところ。僕が勤務していた某米系企業日本法人でも直属の上司の米人はそういうことを言っていた*2。確かに,NDA書面は,大量に締結することになるものの,その御利益が見えづらい。情報のやり取りに問題がなければ,NDAに基づき相手と議論することもないし,そもそもNDA違反で紛争になったという話もあまり聞かない*3から,そういう考えになるのも理解不可能ではない。
しかし,ホントにそこまで言い切って大丈夫なの?と思うのでありました。確かに,セレモニー的に見えて*4,内容をきっちり審査せずとも実際問題として大丈夫ということもあり得るし,NDAという名前の書面全体にその種の書面が占める割合は,低くないとは思うのだが…。
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*以下については,@keibunibu先輩からのご示唆を踏まえております。ありがとうございますm(_ _)m
ーー
会場で,業務効率化の一環として,@kataxさんが,NDAなんてセレモニーだから内容吟味する時間をかけないという趣旨のコメントをされていた*1。その種の物言いはよく聴くところ。僕が勤務していた某米系企業日本法人でも直属の上司の米人はそういうことを言っていた*2。確かに,NDA書面は,大量に締結することになるものの,その御利益が見えづらい。情報のやり取りに問題がなければ,NDAに基づき相手と議論することもないし,そもそもNDA違反で紛争になったという話もあまり聞かない*3から,そういう考えになるのも理解不可能ではない。
しかし,ホントにそこまで言い切って大丈夫なの?と思うのでありました。確かに,セレモニー的に見えて*4,内容をきっちり審査せずとも実際問題として大丈夫ということもあり得るし,NDAという名前の書面全体にその種の書面が占める割合は,低くないとは思うのだが…。
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dtk1970 at 13:08|Permalink│Comments(0)
December 29, 2018
英文契約書レビューに役立つ アメリカ契約実務の基礎 /石原 坦 (編著)
買う・読む機会を逃していたのだが,先日ブックオフで見つけて捕獲して読んだもの。僕は,レクシスネクシス版を購入したが,今では第一法規で出版されているので,上記のリンクは第一法規の方に張ってある(なお,第一法規版との内容の差異は確認していない)。
英文契約書が,いわゆるグローバルスタンダードとなっているのは否定しがたいので,英文契約についての書籍が,その前提,つまり,特定の法域での法適用を必ずしも前提とせずに書かれることもあるが,本書はそれとは異なり,アメリカ法の下での英文契約の検討の実務に資する法律の解説をしている。USでLLMを修了された先生方のコラムも,実務の参考になるとともに,同様のコースを目指す方の参考になるだろう(個人的には,NY州の資格を取るためのプロセスの情報について,僕の頃よりも遥かに手間がかかる形になっている点が印象的だった)。
コンパクトな分量で,上記の範囲で,重要度の高い点を解説した本であり,網羅的ではないものの,出てくる頻度の多い点の解説になっているので,アメリカ法下での英文契約の検討をする上では,手元にあると有用と感じた。元はデータベース上の連載ということもあって,個々の章は読みやすくまとまっている。UCCの条文の摘示や,判例(裁判例)の摘示が細かくなされていて,必要に応じて原典まで辿りやすいことも有用度を上げていると思う。
個人的に一番印象に残ったのは,best efffortについてのNY州法下での規律についての解説。具体的基準がないと,best effort義務の違反を問えないことがある(むしろ問えるほうが例外的)というのを不勉強で知らなかったので(まあNY州法を準拠法とする契約を厳密にレビューした経験自体が多くないけど:勤めていたUS企業はNY州法ベースで雛形作っていなかったし(汗)),なるほど,と思った次第。
(解説の直接の題材はこちら,だが基準を明確に要求しているのは,こちらで,先の裁判例でも引かれてている)
もう一つ印象に残ったのは,FCPA違反防止のための契約上の手当てについての解説。FCPAの概要のまとめがコンパクトでわかりやすかったのと,手当として書かれているものが,勤めていたUSの企業で講じられていたのと方向性として同じだったので,なるほど,と思ったのだった。
dtk1970 at 23:59|Permalink│Comments(0)
December 23, 2018
第2版 実務英文契約書文例集-サンプル書式ダウンロード特典付- / 黒河内 明子 (著), ムーン・キ・チャイ (著)
以前感想を書いた本の,債権法改正を踏まえた改訂版について,目を通したので感想などをメモ。
手にとったきっかけは,毎度おなじみマンサバさんのブックガイド。内容については,昨年いささか意見を述べさせてもらったのと比して,概ね違和感はないものの,一つ違和感が大きかったのは,英文契約についての某書籍というか某辞典(敢えてリンクはしない)。かの本一冊を必携とするのは,ちょっと違わないか,と思った。内容的に有用なのは争わないにしても,高いし,重くてかさばって紐解きにくいので,必携と評価することには違和感があった。
(かの辞典については,増補版になって,CDROMがつかなくなり,文例のテキストデータが得られなくなったというご指摘も某先輩からいただいた。手でテキストを打つと,typoの危険もあるうえ,手間が面倒なので,この措置は改悪と思うので,余計に上記の違和感が加速された気がした)
USのローで教育を受けたUSの資格者で,USの法律事務所での実務後に日本の事務所で長く働かれている方(ゆえに日本の実務にも知悉していると考えられる)と,同じ事務所の日本人の日本資格者の方が共著の形で出来ている本書については,まず例文の質については安心して良いのだろう。
…というだけで終わってもよいのだけど,以下,気づいた点を箇条書きでメモ。前記の個人的な評価を左右するものではないが…。
*1:日本語・英語に関わらず,契約書の実例または書式を見る際には,前提となっている当事者の素性,力関係等をふまえて見ないと,参考になりにくいと思っている。その意味で,その辺りの文脈なしに,条項だけ見て,議論することには,あまり意味がないのではないかと,個人的には思っている。
*2:なお,英文契約についての一番最初に読む本という意味では,いろんな本があるが,個人的には,僕自身も最初に読んだ,英文契約書の基礎知識,及び,英文契約ドラフティングハンドブック(2册セットで読むのが良い)がオススメと考えている。
とはいえ,じゃあ代わりは?と考えると,英文契約で一冊だけ,というと,なかなか思いつかない。個人的には一冊でなんとか,というのは不適切と思っているから。
敢えて一冊を選ぶなら?と考えてみると,おそらく一冊だけなら,きっと例文集が良いのだろうと考えるに至った。英文契約について悩むのは,自分でドラフトするとき,というのがもっともありそうな気がするし,その際は,例文があったほうが良いだろう。例文がしっかりしていないと,解説だけあっても,こと英文契約に関しては,結局どう書くの?というところははっきりしないかもしれない。逆にしっかりした例文があれば,記載の意味するところが不明瞭であってもそれを調べることは可能だろう。
そこで,値段,重さなどの点でお手頃で,広範な契約類型をカバーして,かつ,例文のしっかりしたもの,ということで考えてみると,今回ご紹介のこの一冊ということになろうと考えた次第(なので,その旨つぶやいた)。
USのローで教育を受けたUSの資格者で,USの法律事務所での実務後に日本の事務所で長く働かれている方(ゆえに日本の実務にも知悉していると考えられる)と,同じ事務所の日本人の日本資格者の方が共著の形で出来ている本書については,まず例文の質については安心して良いのだろう。
また,例文のワードデータをDL可能な点(初版ではCDROMだったが,最近はディスクドライブがない端末が多いので,二版ではDLの形にした,という対応の仕方も興味深い)も,本文を見て打ち込む手間及びその際にtypoの危険が少ないという点でも有用だろう。
さらに,書式例に修正を加える際に留意すべき点についても一定の記載があるのも間違いを減らす上では有用。
(なお,十分に明示的には語られていないようだが,書式例は,日系企業と外資との間の契約で,日系企業側に有利になるように起案されているものと思われる。読者層を考えれば当然のことだが,その点は明記すべきだったと思う。そういう前提で作られているのであれば,相手方側の立場でこの書式例を使う場合は,調整すべき点があるということになるわけで,その種の事態は,日本語の文例集でもあてはまるので,ことさらに言うほどのことではないのかもしれない。しかし,読者の文例の使い方が様々なものであることが想定される以上,念のために,注意喚起しても良かったのではないか*1)。
これらの点だけで,同様の条項に対する文例のバリエーションがあまり多くないという問題点を差し引いても,手元に置くべき一冊としての資格を満たしていると考えるところ。
なお,文例集なので,個々の文例についての解説はあっさりめ。ある程度英文契約について理解していないと,使いこなせないと思われる。*2
これらの点だけで,同様の条項に対する文例のバリエーションがあまり多くないという問題点を差し引いても,手元に置くべき一冊としての資格を満たしていると考えるところ。
なお,文例集なので,個々の文例についての解説はあっさりめ。ある程度英文契約について理解していないと,使いこなせないと思われる。*2
…というだけで終わってもよいのだけど,以下,気づいた点を箇条書きでメモ。前記の個人的な評価を左右するものではないが…。
- 一般条項に関しての解説が,通知条項から始まるというのは,法的効果が通知によって生じることが多いことに鑑みてのことだろうけど,なかなか類書ではないのではないか。
- 準拠法・紛争解決機関についての条項は,仲裁に付す前に課した相互交渉について,両当事者によって有効的に解決できないときには仲裁に付す,とあるものの,両当事者によって有効的に解決できないとまではいえない,と争うことで,仲裁に入るのを防ぐという攻撃防御が生じるような気がした。機械的に日数制限(起算点も規定した上で)で切る形を取るほうが無難なのではないか。
- NDAの非保証条項の解説のところ及びその他のところで全部大文字にしている部分に関しては,そのような措置の淵源の一つとして,UCC2-316への言及程度はあってよいのではないか。
- 売買基本契約のところで,USの再輸出規制との関係で条項を設ける場合について言及があるが,その場合のサンプルがあってもよいかもしれない。実例を見たことがないと分かりづらいので。もっとも,そういうのはUSの会社が当事者のときで,そっちが用意するから要らないという割り切りかもしれないし,それであれば,一応理解可能ではあるが。
- サービス契約書とかでcommercially reasonable effortが出てくるけど,誤解しやすいところだと思うので,マンサバさんのいつぞやの記事にあったような,意味合いの説明とかはしておくべきではないか。
- サービス契約とコンサルティング契約で業務内容の別紙の例もあるのは一応評価すべきか。実務レベルで評価できるほどの出来かどうかは疑義がのこるとしても,何も参考になるものが無いよりはマシなので。
- 共同研究開発契約については,新しく発明が生じた場合の措置として両者持ち分均等で共有となっていて,ある種玉虫色なドラフトにも見える。しかし,それだと,両者の意思が一致しないと処分などはできないということになりかねないので,そういうドラフトでも良いのか,正直よく分からなかった。技術ライセンス契約については,ライセンシー側でライセンス技術を元に改良発明が生じた場合の扱いが規定されていないように見えたけど,規定しなくても大丈夫なのだろうか・・・いずれの点も,こちらの経験不足で判断がしにくい。
- 製造物供給契約は,第二版で追加。確かに請負系の契約類型の文案があるのは重要。
- 契約の付属的な文書ともいうべき,催告書,変更契約書,及び,解約合意書についての文例があるのも,有用と感じる。いざ作ろうと思うと迷う時があるので。
*1:日本語・英語に関わらず,契約書の実例または書式を見る際には,前提となっている当事者の素性,力関係等をふまえて見ないと,参考になりにくいと思っている。その意味で,その辺りの文脈なしに,条項だけ見て,議論することには,あまり意味がないのではないかと,個人的には思っている。
*2:なお,英文契約についての一番最初に読む本という意味では,いろんな本があるが,個人的には,僕自身も最初に読んだ,英文契約書の基礎知識,及び,英文契約ドラフティングハンドブック(2册セットで読むのが良い)がオススメと考えている。
dtk1970 at 21:25|Permalink│Comments(0)
October 24, 2018
書くならば何処に
現実逃避(汗)かもしれないが…経文緯武さんの一連の呟き(こちら以下)を見て思ったことを備忘のためメモ。
債権法改正で,契約の目的とかが,契約内容の解釈のうえで,重要になる場合があることが予想される。そこで,予測可能性をあげる観点から,契約の目的とかについて,契約書のどこかに明記しておく方が良いのではないか,という問題意識が生じたとしてもそれほど不思議ではないように思う。
この問題意識に対して,契約書のどこに記載すべきか,という点について,英文契約流にwhereas clauseみたいな発想で前文に書く,というのは,それ以外の手がないときの次善の策としては,理解出来なくもないけど,最初からそこを想定するということには,個人的には違和感を覚える(*1)。
英文契約におけるwhereas clauseについては,そもそも法的拘束力を有さないというのが一般的な理解のはず(*2)。そうなると,書いてあることによって,契約解釈において参照される可能性は生じるものの,常にそうなるかどうかは,不確実ということになると考える。参照する義務が誰かに生じるものではないからである。
つまり,書いてあることによって,参照される期待が生じるものの,そうならない可能性もある。中途半端に期待が生じる反面で,はしごを外された感じになる可能性すらあるということになり,却って事態を悪化させる可能性はないか,と懸念するところ。書いてあるがゆえに,記載が参照される前提で防御をしたら,そもそも参照されずに,前提が崩れるということは,想定可能ではなかろうか。
そういうことになる危険を冒すくらいなら,むしろ正面から,本文に規定すべきではないか。そうすれば,本文に書かなかったのは,拘束力を生じさせないためにやったことであり,それ故に参照する義務は生じない,というような議論は防ぎやすいはず。
例えば,両当事者は,本契約の規定及びその違反の解釈に際しては,次の点を踏まえてこれを行うものとする,として,契約の経緯・目的について箇条書きで書くような形での記載は,少なくとも日本法の下では,不可能ではないはず(*3)。
また,仮に,上記のような起案をするとしても,その場合は,なんでもかんでも書けば良いというものではないだろう。契約締結に至る経緯も内容によっては,自分の側に不利に作用するような事情もあるかもしれない。そうなると,契約内容及び四囲の状況に鑑みて,将来生じうる事態に備えて,戦略的に起案しないとイケナイような気がするし,そういう判断は法務の関与なしになしうるか,疑問が残る。すべての取引に入れるほど法務の人的資源があるところはおそらくそれほど多くは無いだろう。事業部門の担当者に書き方を教えるとか,類型化して対応,というやり方も想定可能だが,それでなし得るレベルの書き方でどこまで,当初の需要に答えうるのか,個人的には疑問を覚えるところ。それに,優先順位の付け方として,どれほどの重みを持って検討されるべき事柄か,事業内容などによって千差万別になる可能性のある事柄でもある。もっと先にやるべきことがあるという場合も多いのかもしれない。
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債権法改正で,契約の目的とかが,契約内容の解釈のうえで,重要になる場合があることが予想される。そこで,予測可能性をあげる観点から,契約の目的とかについて,契約書のどこかに明記しておく方が良いのではないか,という問題意識が生じたとしてもそれほど不思議ではないように思う。
この問題意識に対して,契約書のどこに記載すべきか,という点について,英文契約流にwhereas clauseみたいな発想で前文に書く,というのは,それ以外の手がないときの次善の策としては,理解出来なくもないけど,最初からそこを想定するということには,個人的には違和感を覚える(*1)。
英文契約におけるwhereas clauseについては,そもそも法的拘束力を有さないというのが一般的な理解のはず(*2)。そうなると,書いてあることによって,契約解釈において参照される可能性は生じるものの,常にそうなるかどうかは,不確実ということになると考える。参照する義務が誰かに生じるものではないからである。
つまり,書いてあることによって,参照される期待が生じるものの,そうならない可能性もある。中途半端に期待が生じる反面で,はしごを外された感じになる可能性すらあるということになり,却って事態を悪化させる可能性はないか,と懸念するところ。書いてあるがゆえに,記載が参照される前提で防御をしたら,そもそも参照されずに,前提が崩れるということは,想定可能ではなかろうか。
そういうことになる危険を冒すくらいなら,むしろ正面から,本文に規定すべきではないか。そうすれば,本文に書かなかったのは,拘束力を生じさせないためにやったことであり,それ故に参照する義務は生じない,というような議論は防ぎやすいはず。
例えば,両当事者は,本契約の規定及びその違反の解釈に際しては,次の点を踏まえてこれを行うものとする,として,契約の経緯・目的について箇条書きで書くような形での記載は,少なくとも日本法の下では,不可能ではないはず(*3)。
また,仮に,上記のような起案をするとしても,その場合は,なんでもかんでも書けば良いというものではないだろう。契約締結に至る経緯も内容によっては,自分の側に不利に作用するような事情もあるかもしれない。そうなると,契約内容及び四囲の状況に鑑みて,将来生じうる事態に備えて,戦略的に起案しないとイケナイような気がするし,そういう判断は法務の関与なしになしうるか,疑問が残る。すべての取引に入れるほど法務の人的資源があるところはおそらくそれほど多くは無いだろう。事業部門の担当者に書き方を教えるとか,類型化して対応,というやり方も想定可能だが,それでなし得るレベルの書き方でどこまで,当初の需要に答えうるのか,個人的には疑問を覚えるところ。それに,優先順位の付け方として,どれほどの重みを持って検討されるべき事柄か,事業内容などによって千差万別になる可能性のある事柄でもある。もっと先にやるべきことがあるという場合も多いのかもしれない。
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dtk1970 at 22:22|Permalink│Comments(0)
June 16, 2018
修正の有り様について
以前エントリで書いたこととか,つぶやいたことに重なるが,備忘のために現時点での自分の考えのメモ。
PDF(極端なケースでは自社側押印済の状態で回ってくる場合も含む),または,WORDでロックかけた状態で契約書の雛形を送ってくる行為についての議論がタイムライン上等で流れていた。
受領する側の法務担当者としては,どういう状態で来ようが,自社の利益を考えれば,修正を求めるべき内容と判断すれば,まずはそれを求めてみるべき,であり,後は手間の問題というところになるような気がする*1,2。
そうなると,双方の手間の極小化が求められるべきところなので,個人的には,次の2択が望ましいのではなかろうかと考える。
続きを読む
PDF(極端なケースでは自社側押印済の状態で回ってくる場合も含む),または,WORDでロックかけた状態で契約書の雛形を送ってくる行為についての議論がタイムライン上等で流れていた。
受領する側の法務担当者としては,どういう状態で来ようが,自社の利益を考えれば,修正を求めるべき内容と判断すれば,まずはそれを求めてみるべき,であり,後は手間の問題というところになるような気がする*1,2。
そうなると,双方の手間の極小化が求められるべきところなので,個人的には,次の2択が望ましいのではなかろうかと考える。
- 約款の類のように,少なくとも基本的な部分は,共通化を図りたいということであれば,約款部分はpdf*3でもやむなしか。ただし,必要に応じて別の書面で修正をする*4。
- 上記以外はwordのやり取り。ただし,変更履歴が必ず残るよう,ロックはかける。そうしないと,いちいち全文一言一句チェックしないといけなくなるから。
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dtk1970 at 11:53|Permalink│Comments(0)
May 21, 2018
それにはそれなりのわけが
リアクション芸人風のメモで,かつ,既につぶやいたことの一部再掲になって恐縮ですがメモ。
鯖氏によるエントリについて思ったことを。
企業間NDAについての裁判例・判例がないという点について。NDA違反とかは訴訟に馴染まないから,仮にNDA違反とかがあっても,裁判例自体が生じないのではないか。守秘義務との関係で問題があったとしても,訴訟以外の手段で解決されるから,訴訟にならないのではないか,と感じる。
そもそも,NDAによっては,NDA締結の事実及びNDAの存在を外部に開示しないよう当事者に義務付けるようなものすらある。そういうのを見たことがあると,そういう条項があるような契約類型においては,違反について,訴訟という第三者たる国家機関による判断を求める手続きに訴えるのには,馴染まないのではないかと感じずにはいられない。訴訟になった場合,不正競争防止法上での保護が得られないときには,訴訟資料が公開されてしまうことも想定されるところなので,訴訟という手続きに訴えるのは,NDA締結の趣旨を没却することにもなりかねない,という判断になりそうな気もする。
そこまで考えると,仮に何かが起きても,訴訟以外の手段,例えば,営業経由での相対交渉とかでトラブルを解決するということも考えられる。秘密情報を巡るやり取りとかが外部にもれないという意味においては当事者双方にメリットの有る話なので,そういうやり方をする事例もあるのではないかと感じるところ。
(この種の話が仮にあったとしても,上記のような考慮の結果であれば,当然,表には出てこないだろう)
また,NDAについての紛争が見られないことをもって,NDAは締結するご利益に乏しいという物言いにも接したことがあるのだが,単にNDAが有効に機能していると何もトラブルは生じないので,この種の物言いには,強い違和感を感じるところでもある。
そんなこんなを考えると,冒頭にリンクを張ったエントリについては,議論の飛躍があるのではないかと疑問も感じるところ。もちろん,NDAの文言と情報管理の実体との間で齟齬があると却って危ないから(NDAの締結の事実に安心して実体を見なくなると,却って有害かもしれないし),NDA締結の事実に過度に依存すべきではなく,その限りでは結論には同意するのだが。
鯖氏によるエントリについて思ったことを。
企業間NDAについての裁判例・判例がないという点について。NDA違反とかは訴訟に馴染まないから,仮にNDA違反とかがあっても,裁判例自体が生じないのではないか。守秘義務との関係で問題があったとしても,訴訟以外の手段で解決されるから,訴訟にならないのではないか,と感じる。
そもそも,NDAによっては,NDA締結の事実及びNDAの存在を外部に開示しないよう当事者に義務付けるようなものすらある。そういうのを見たことがあると,そういう条項があるような契約類型においては,違反について,訴訟という第三者たる国家機関による判断を求める手続きに訴えるのには,馴染まないのではないかと感じずにはいられない。訴訟になった場合,不正競争防止法上での保護が得られないときには,訴訟資料が公開されてしまうことも想定されるところなので,訴訟という手続きに訴えるのは,NDA締結の趣旨を没却することにもなりかねない,という判断になりそうな気もする。
そこまで考えると,仮に何かが起きても,訴訟以外の手段,例えば,営業経由での相対交渉とかでトラブルを解決するということも考えられる。秘密情報を巡るやり取りとかが外部にもれないという意味においては当事者双方にメリットの有る話なので,そういうやり方をする事例もあるのではないかと感じるところ。
(この種の話が仮にあったとしても,上記のような考慮の結果であれば,当然,表には出てこないだろう)
また,NDAについての紛争が見られないことをもって,NDAは締結するご利益に乏しいという物言いにも接したことがあるのだが,単にNDAが有効に機能していると何もトラブルは生じないので,この種の物言いには,強い違和感を感じるところでもある。
そんなこんなを考えると,冒頭にリンクを張ったエントリについては,議論の飛躍があるのではないかと疑問も感じるところ。もちろん,NDAの文言と情報管理の実体との間で齟齬があると却って危ないから(NDAの締結の事実に安心して実体を見なくなると,却って有害かもしれないし),NDA締結の事実に過度に依存すべきではなく,その限りでは結論には同意するのだが。
dtk1970 at 23:28|Permalink│Comments(0)
May 13, 2018
そのわけは?
一部呟いたことではあるが,メモをば。
概略,契約書の文言とビジネス実態との間に齟齬があるときに,実態に合わすべきという趣旨の話について,一流企業とかでも齟齬が見られる点を問題視する呟きを拝見した。
確かに,一般論としては,契約書の文言とビジネスの実態との間に齟齬があるのは好ましいことではない。そこで,通常は文言の方を実態に合うようにすべき,なのだろう。企業法務の担当者の立場からすれば,そういう風に考えるのが通常であろう。
しかしながら,齟齬が問題になるのは,契約書の文言に戻って解決すべき問題が生じたときである。裏を返せば,仮に何か問題が生じたとしても,契約書の文言に戻る以前に,当事者間の力関係で片が付くのであれば,そもそも契約書の文言の適否は問題とならない。一方当事者がそのような認識でいるのであれば(実態としてどうかという問題ではないことに注意),当該当事者にとっては,ことさらに実態と合わせなくても問題はないという見方も可能である。それどころか,その見方からすれば,当該当事者にとっては,実態に合わせるべく議論するのも,ややもすれば手間暇の無駄となりかねない。当該当事者が大企業であって,稟議だの決裁だのの手間がかかるとなればなおのこと。そこまでの手間をかけることで,双方当事者にかかるコストが膨大になることも想定される。そして,当該当事者にとっては,そのような手間をかけても,手間によって新しく得られる便益はないに等しいとなれば,効率化への要請が厳しい昨今では,そのような手間をかけることは内部的に許容されないということにもなりかねない。
つまり,そういう場合は,契約書の締結は,書面の存在が重要という意味でしかなく,内部統制等から生じるある種のアリバイ作りでしかないことになる。個人的にはそういう状態が好ましいとは思わないが,そういう事態と思われる状況に遭遇したことがないではない。
そういう認識が前提にある相手に対し,文言の修正を求めるとなると,そういう前提がない相手と対峙するのとは異なるアプローチが求められることになる。もっとも,そもそも,そういうことを言う相手とは取引しない,と言われる可能性もあるので,如何なるアプローチが有効なのか,個人的にはよくわからない。
また,これに類似していると感じる点として,仮に文言上権利として規定してあっても,特に当事者間の継続的取引関係が想定されている場合に,力関係の弱い側の権利行使が,他方当事者からの爾後の発注を受けられなくなる危険を生じさせ,それゆえに当該権利行使が事実上できないこともある,という場合も想定されるし,実際見聞きしたことがある。
一番最初の問題提起については,以上のようなことも踏まえて議論を考える必要があるとも感じるところ。文言を弄るだけの問題で済まないのが重要と感じる次第。
dtk1970 at 09:11|Permalink│Comments(0)
May 10, 2018
はやさの意味
修習絡みのネタは迂闊に書きづらいし,時事ネタには反応しないのを旨としているので,購入した書籍類の紹介・そのうちの読んだものの感想のエントリが多くなりがちだが,某件については,色々感じるところがあったので,若干のメモを。
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(以下については,業界によって事情が異なるところがあるかもしれないので,こちらの経験した範囲に基づく感想であることをあらかじめ断っておく)
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March 17, 2018
現役法務と顧問弁護士が書いた 契約実務ハンドブック / 長瀨 佑志 (著), 長瀨 威志 (著)
ご縁があって出版社の某氏からいただいたもののうちの一冊の感想をば。修習生モードに頭がなっているので,たまには企業法務モードに切り替えて,読んでみて気づいたことを書いてみる(といいつつ,書いてからupするまでに時間が空いてしまった…)。
債権法改正も視野に入れつつ,今時の契約法務周りの実務を幅広に鳥瞰する本という感じの本。契約準備,契約交渉,ドラフティング,トラブル発生,解決方法(解決方法で執行・保全まで触れているのは有用という気がした),という時間軸,及び,売買契約,金銭消費貸借契約,不動産売買・賃貸借契約,ソフトウエア開発委託契約(業務委託契約),労働契約という類型別,にそって,契約書の雛形及び周辺的な事柄について実務的な点を整理,解説している。目次部分にマトリクスでこれらの項目が整理されているので,一覧性があって,検索もし易い。
また,それぞれのセクションごとに法務担当者と外部弁護士との役割の差異についての記載があったり,企業側が弁護士事務所とどのように関わっていくかという点についての記載もあり,後者については相談メモや意見書の例もあるところは,特徴的といえるかもしれない。
そんなこんなを考えると,契約法務(機関法務あたりと対地する感じか)の担当者の最初の一冊としては適当なのではないかと感じるところ。特にリスクについて,取ってはいけないリスクと,取った上でコントロールするリスクとを明確に区別して論じているのは,むやみにリスク回避的になるのを戒める意味でもよいと思われる。
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dtk1970 at 00:10|Permalink│Comments(0)
February 18, 2018
新・国際売買契約ハンドブック / 住友商事株式会社法務部 (編集), 三井物産株式会社法務部 (編集), 三菱商事株式会社法務部(編集)
約四半世紀の時を超え,名著と評判の高かった書籍の新版が出た。一通り目を通してみたので感想などをメモしてみる。財閥系総合商社3社の法務部の方々が集って作ったものの新版であり,創業商社というだけでひれ伏したりしないものの,新刊予告を発見した時点で,前著は読んだことがなかったものの,期待はしていたので,書店で見つけてその時点で捕獲,もとい,確保した。結論からいえば,国境を越えて物の売買をする契約を取り扱うのであれば,座右において,適宜紐解くに値する本ではあるかと思う。
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dtk1970 at 10:42|Permalink│Comments(0)
September 30, 2017
それで「動ける」のか?
またもや怪しげなタイトルですいません。
無双なronnor先生の次のつぶやきを見て思ったことを、既につぶやいたことを基にメモしてみようかと。
契約書の案文を見て、この案文が実務的に「ワークする」というか、その案文で自分たちが「動ける」のか、という視点はものすごく重要。訴訟の文脈での位置づけについては別論があるとしても、当事者間においては、契約書は、まずは行為規範となる以上、自分が当該行為規範たる契約に従って「動く」ことができるかという視点が必要。できもしないことを約束するのは、倫理的にも問題なうえに、リスク管理という意味でも問題があるから。
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無双なronnor先生の次のつぶやきを見て思ったことを、既につぶやいたことを基にメモしてみようかと。
「その条項を入れて実務的にワークするのか」の検証は重要。例えば、報告義務を相互的に負うことにして「これこれこういう事象があれば相互に●営業日以内に報告する」と規定する場合、当該事象が発生した場合自社はその期間内に本当に報告できるのか等の検証をしないと危ない。 #新人法務パーソンへ
— QB被害者対策弁護団団員ronnor (@ahowota) 2017年9月29日
契約書の案文を見て、この案文が実務的に「ワークする」というか、その案文で自分たちが「動ける」のか、という視点はものすごく重要。訴訟の文脈での位置づけについては別論があるとしても、当事者間においては、契約書は、まずは行為規範となる以上、自分が当該行為規範たる契約に従って「動く」ことができるかという視点が必要。できもしないことを約束するのは、倫理的にも問題なうえに、リスク管理という意味でも問題があるから。
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August 31, 2017
判子についてのメモ
色々あって、現時点でのこちらの理解という形になるが、メモしておこうかと。某先輩からご示唆いただいた二分法がわかりやすかったので、それを借用しつつ、僕の経験に基づいて、ちょっと整理してみる。こちらの経験不足・勉強不足等に起因する誤解などあれば、ご指摘いただければ幸甚。続きを読む
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July 14, 2017
国際交渉の法律英語 そのまま文書化できる戦略的表現 /中村 秀雄 (著), 野口ジュディー (その他)
夏バテぎみだが、いつもお世話になっているマンサバさんに振られたので、既につぶやいた内容(公開下書きモードとも言う)に基づき感想などを。
歴戦の勇士、という感のある著者が、英語nativeの英語教育の専門家の力を借りて、法律英語で使う基本的な英語の用語について、類ごとの差異・使い分けを解説しているというのが、メインの部分。詳細は目次を見ればわかるように、日本語としての意味に基づき分類し、解説するという形を取るのがメインの部分。
それとは別に、後ろの方に関係構築のための英語についての話もあって、それはそれで有用。
それとは別に、後ろの方に関係構築のための英語についての話もあって、それはそれで有用。
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dtk1970 at 22:14|Permalink│Comments(0)
June 09, 2017
サプライヤー起因の不具合への対応についてのメモ
こちらの記事を発端として、先般、twitter上で興味深いやり取りがあったところ。togetterとかでまとめようかとも思ったけど、面倒なうえ、他人様のつぶやき等を勝手にまとめるのもなんだか躊躇われたのと、補足をしたほうが良さそうなところもあるような気がしたので、自分の言葉でエントリにしようかと。
#2017/6/11ちょっと加筆した。
サプライチェーンの途中にいる業者の立場で、自社のサプライヤーからの供給が、当該サプライヤー起因の何らかのトラブルにより遅れる、止まる、または、供給内容に欠陥などが生じた場合にどうするか。そういう事態にいたる理由は様々でありうるとしても、自社としてはどうすべきか。そういった辺りに、ついて、ざっくりとメモにしてみようかと思う。
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dtk1970 at 23:58|Permalink│Comments(0)
February 22, 2017
契約書の内容確認について(リアクション芸人風)
例によって無双様の連載が興味深いので、契約書チェックの回を拝読していて思いついたことを以下箇条書きで。既にネタにした内容とかぶるかもしれないけど、その辺はご海容を賜りたく。
- 定義条項、定義条項だけ読んでいても正直わかりにくいように思うので、全体像をざっと眺めたのちに、定義条項以外のところを読んでいて、そこで言及されるたびに、言及されている個所において、齟齬がないかという確認の仕方もありかな、と思う。
- 定義の仕方については、定義条項を読まなくても、ある程度定義されている内容が想像しやすい方が、効率とメンテナンスのしやすさのうえでは重要かと思う。文中にあるように、定義に使った言葉から定義の内容が想像しづらいのは誤解のもとになると思う。
- 定義条項の中にこっそり定義以外の内容(当事者の義務とか)が入っていないかの確認は別途いるかも。悪気がなくても、慣れてないとやってしまう場合があると思うけど、メンテナンスはしにくくなると思う。
- 当事者について、甲とか乙とすると、間違いに気づきにくいので、可能であれば、当事者の略称にするか、役割に応じた形(買主とか売主とか)にする方が、良いように思う。
- 形式的なチェックという意味では、境界値(以上とか以下とか)の扱いが明確か、曜日の扱い(期日が日曜日、祝日、年末年始とかに当たった場合の扱い)が適切になされているか、通貨の換算が必要な場合に、適切に書かれているか(換算レートはいつ時点のどのレート?)というあたりも含めてもいいのかもしれない。
- 形式面ではあるのだけど、時間軸との関係で時々問題になるのは、押印名義(サイナー)となる方の異動がある場合に、締結日との関係で整合性が取れているか、何らかの事情でバックデートになるときに、締結時点の適切な押印(サイン)権限者になっているか、という点も気を付けた方がいいように思う。なお、バックデートのときは、会計・税務上問題となる可能性があることも要確認。
- 自分の目だけで不安、でも、他の人の目を借りにくい、というときは、一旦時間をおく(トイレで顔を洗ってみるとかもアリか)、見る環境を変える(場所を変える、モニターで確認しているなら、一旦紙に打ち出してみる)という手はあると思う。
・・・大したコメントになってないけど、備忘もかねてupしておく。
dtk1970 at 00:45|Permalink│Comments(0)
December 03, 2016
最近NDAについて考えたこと
例によって事前の仕込みですが、#legalAC企画エントリです。
ここ2日キャリア形成についてのお話が続いていて、それはそれで興味深いのですが、そればっかりもどうかと思うので…違う話題にしようかと(言い訳)。
当初は他の話題にしようかとも思っていたのですが、とっつき易い話題の方が盛り上がりやすいかと思ったので(謎)、今年に入ってから、NDAについていろいろ考える機会があり、いくつか、考えたことのうち、ネタにしてよさそうなこと等をまとめてみようかと思います。またかよ、とか言われそうですが。
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ここ2日キャリア形成についてのお話が続いていて、それはそれで興味深いのですが、そればっかりもどうかと思うので…違う話題にしようかと(言い訳)。
当初は他の話題にしようかとも思っていたのですが、とっつき易い話題の方が盛り上がりやすいかと思ったので(謎)、今年に入ってから、NDAについていろいろ考える機会があり、いくつか、考えたことのうち、ネタにしてよさそうなこと等をまとめてみようかと思います。またかよ、とか言われそうですが。
以前、某先輩が「たかがNDA、されどNDA」とのたまわれたように、これはこれで奥が深いというかなんというか…。まあ、ビジネスのとっかかりのところで結ぶのと、取り交わした後でなされることを見すえないとこちらに不利になるので、そうならざるを得ないのかもしれません…。
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dtk1970 at 00:00|Permalink│Comments(0)
October 02, 2016
August 07, 2016
契約書のドラフティングについてのメモ
NBLの某対談に対する川井先生のエントリ及びそれに対する戦士さんの呟きを読んで、メモ。すでにお二方も含めつぶやかれるなどしたこととも重なるかもしれないけど、自分の頭の整理もかねて、思うところを箇条書きで。
(こういうリアクション芸人的なものだけだと、なかなか「ちゃんとしたエントリ」にはならないけど、こちらの諸々の状況からすれば仕方がないのだろう)
(こういうリアクション芸人的なものだけだと、なかなか「ちゃんとしたエントリ」にはならないけど、こちらの諸々の状況からすれば仕方がないのだろう)
- 大概のことがそうであるように、契約書のドラフテイングも諸々の制約要因の中でなされる営為であり、その営為の成果物たる契約書も、制約要因から完全に自由となるのは難しいし、その意味で、紛争となった場合に、文脈抜きで、第三者たる裁判所が、外在的視点で独自で解釈できるか、そうすることが可能な程度に書ききれているか、というと、状況による、としか言えないのではなかろうか。各種の制約要因がどういう影響を及ぼすかは、個別の状況いかんとしか言いようがないと思うので。
- 前述の制約要因の中には、法務側のリソース(経験値、時間、予算)の問題や、時間的制約、自社側の事業部門またはそのほか関連部門のリテラシーの問題、相手方のそれらの問題、相手方との交渉力の問題、などが含まれる(が、これらに限られないかもしれない)。
- 大規模なM&Aの最終契約のような場合は、時間を別にすれば、それ相応にリソースを確保して、ことにあたるだろうから、相対的には、外在的な視点での解釈が可能かもしれない反面、それを排除すべく、それ相応にレビューとかをしているから、NBLの記事にあったように、裁判所に余計なことをしてくれるな、という議論にもなりやすいのではなかろうか。
- 他方、制約要因の中で、手持ちのリソースに鑑みると、完璧を目指すには程遠い、となったときにどうするかといえば、ある種のリスクアプローチというか、トリアージというか、何か問題になりそうな事象が起きた時に、どうなるかを考えて、リスクの最大値が大きくないと見込まれたものの優先順位を下げ、その反対のものの優先順位を上げるというような対応になるのではなかろうか。何かが起こってもたかが知れていると思えば、契約類型が間違っていても、請負のはずなのに売買契約のひな型を使うというような事態を許容することも十分あり得ると思う。そういうものについて、書面の文字面だけ読んで解釈されても、ちょっと困るのではなかろうか。
- とはいえ、事前のリスクの読みと、実際に紛争になるか、ということとの間に、明確な因果関係とかはないと思われるから、裁判所とかに出される契約書が、どういう素性?のものかは、正直予断はできないはず。
dtk1970 at 22:15|Permalink│Comments(0)
July 18, 2015
「スタイルガイド」についての若干のコメント
例によって、新しいことを始めるのが得意なkataxさんの試みの尻馬に乗ってみることにする。
契約書ドラフティングスタイルガイド
まあ、この表題については、某無双さん方面とかから違和感の表明があったけど、それはそれとして(*)、 コメントを数点メモ。
いずれも細かい話で恐縮なのと、こちらのダメ法務ぶりを露呈しそうだが、まあ、その辺はご容赦あれ。
契約書ドラフティングスタイルガイド
まあ、この表題については、某無双さん方面とかから違和感の表明があったけど、それはそれとして(*)、 コメントを数点メモ。
いずれも細かい話で恐縮なのと、こちらのダメ法務ぶりを露呈しそうだが、まあ、その辺はご容赦あれ。
- 当事者の略記として、甲とか乙はやめておけという指摘については、同意なんだけど、理由について、補足めいたことを。
当事者間で義務の押し付け合いの交渉をしているようなケースでそういう表記をしていると、いじくり回しているうちに、混乱して取り違えて、結果的に辻褄の合わない契約書が出来上がって、しかもそれにお互い気づかないという事態を招く可能性がある。内容を理解しているという頭で読むとその辺気づきにくくなりやすいこともあるように思う。僕自身はそういうことで自分のミスで青くなる経験はないが、以前、取り違えたのに気付かずに締結後数年近く経過したのちに、そのミスに気付いて修正したという例を見たことがあるので…。そういうことは起こりうるということから、氏名の略記(X株式会社であればX)または主な役割(売買契約では、売主とか買主とか)とかのほうがまだ安全ではないかと思う。 - 定義条項を設ける場合には、定義の条項の中には当事者の権利義務に関する話は入れないこと。姑息な手としてそういうことを交渉相手にされることがあっても、自分はしないほうがいい。理由は簡単で、権利義務の検討をする際に、定義条項をみると、長い契約書では、面倒でメンテナンスしにくくなるし、端的に見落すリスクもあると思う。
- 条文に( )書きで見出しを付す場合、条文の内容の変動に応じて、見出しが内容を適切に反映したものとなっているか、都度検討する必要が生じる。見出しだけ直し忘れという事態が生じうるし、それによって、後から誤解するリスクも有るということ。そういうことが生じうるから、英語の契約書では、見出しについては参照用に過ぎない、というような条項が入ったりするということを理解しておくべきだろう。条項の変更、削除、追加とかしていると時に見落とす危険があるように思う。
dtk1970 at 00:36|Permalink│Comments(0)
November 18, 2014
法務部員のための 契約実務共有化マニュアル For Legal department Manual of contract business sharing / 河村 寛治 (著), 宮田 正樹 (著), 河西 潔 (著)
仕事の早いはっしーさんが早々に紹介されていたが、同時期に入手していたものの、遅ればせながら、一通り目を通した感想をメモ。
商社法務の経験者の先輩方が、契約法務に特に重点をおいて、営業マン向けに、彼らに関係のある法務的分野について書いた解説書、というところで、はしがきでも、法務担当者がまず読んで、営業マン向けの研修に使うことを想定して書いた、とある。
一読した印象では、そういう用途向きなんだろうな、というところ。営業マンに一から読んでもらうのは、法律関係の書籍としては薄めとはいえ、分量の面でも厳しいという気がする。内容面でも、表や図がうまく使われていて、文章も法律書にしては相当程度噛み砕いて、読みやすく書かれているけど、でも、まだ、難解と取られても不思議はないように見受けられる。そうだとすると、法務担当者が自社の状況に応じた調整も含め、補足説明をしながら、研修をする、という感じになるのだろう。 なお、渉外系のお話は明示的には含まれていないが、その辺の特殊要素は別途補えばいい話だし、基本は共通のはずだから、こういう書き方もあり、だろうと思うところ。
個人的には、寧ろ、いわゆるセオリー本と一緒に、初心者の法務担当が読むという使い方の方がいいのではないかという気がした。社内での契約書の取り扱い方とかも書かれているから、便利だし、法務担当者になろうという人間にとってで、あれば、ここまで噛み砕いてあれば、一人でも十分とっつきやすいだろう(これがダメならそもそも人選ミスと言えるくらいに)。まずは営業マン向けに最低限のアドバイスができるようになってもらうという感じか。もちろん法務担当者については、この範囲はあくまでも最初、であって、その先に行かないといけないのだが、手際よくまとめていただいているので、ここからスタートというのも悪い話ではないように思う。 そういう意味では一社に一冊あっても良いのではないだろうか。続きを読む
dtk1970 at 18:47|Permalink│Comments(0)
July 01, 2014
「同じ」?
なんだよそれって感じだし、以前も似たようなことを書いたかもしれないが、某所での某エントリ(面倒を避ける大人の知恵としてリンクせず)を見て思ったことを備忘のためにメモ。
似たような話が続けてくると、「同じ」話だから同じように処理してくれという依頼が来る*1。言いたいことは分からないではない。同じであれば、法務側の事務処理が簡単に済むだろうから、という発想は理解できる。法務に依頼する側からすれば、法務の契約審査は簡単に終わった方がいいだろうから。
しかし、本当に「同じ」なのか?と思うこともある。
別にIT業界ほど足の早い業界でなくても、事態はあれこれ変わるわけで、そんなに簡単に「同じ」という判断をしてよいのか、時として疑問に思うのである。
企業体としての契約当事者が同じであっても、その企業の業績とかが異なることもあるし、逆に自社側の状況も異なるかもしれない。対象製品・役務に関する市場の状況も異なるかもしれない。 他の事案で何か学習して、従前とは異なる処理をする必要があるという認識があるかもしれない。*2
…というようなことを色々考え始めると、そう簡単に「同じ」で処理していいのか、という気になるのでありました。
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似たような話が続けてくると、「同じ」話だから同じように処理してくれという依頼が来る*1。言いたいことは分からないではない。同じであれば、法務側の事務処理が簡単に済むだろうから、という発想は理解できる。法務に依頼する側からすれば、法務の契約審査は簡単に終わった方がいいだろうから。
しかし、本当に「同じ」なのか?と思うこともある。
別にIT業界ほど足の早い業界でなくても、事態はあれこれ変わるわけで、そんなに簡単に「同じ」という判断をしてよいのか、時として疑問に思うのである。
企業体としての契約当事者が同じであっても、その企業の業績とかが異なることもあるし、逆に自社側の状況も異なるかもしれない。対象製品・役務に関する市場の状況も異なるかもしれない。 他の事案で何か学習して、従前とは異なる処理をする必要があるという認識があるかもしれない。*2
…というようなことを色々考え始めると、そう簡単に「同じ」で処理していいのか、という気になるのでありました。
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dtk1970 at 00:30|Permalink│Comments(0)
May 20, 2014
漢字使用などについて
とある方のtwitterで経由で拾ったのでメモ
まあ、法令における漢字使用の決め事なので、それ以外の文書で常にこれに習わないとイケナイということはないと思うのだけど、一方で、常にこれに従わないと誤りであるということを真顔で言う方々もおられるので、必要に応じて従えるようにはしておくべきかと思ったりします。
まあ、法令における漢字使用の決め事なので、それ以外の文書で常にこれに習わないとイケナイということはないと思うのだけど、一方で、常にこれに従わないと誤りであるということを真顔で言う方々もおられるので、必要に応じて従えるようにはしておくべきかと思ったりします。
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May 08, 2014
NDAについてのメモ(その2…らしい)
たまには書きたくなったのでメモを。脳裏をよぎったこと、というか、思い出したことを備忘のためにメモしているだけだけど。
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- 秘密保持義務の例外で、役所とかに開示するケースがあるけど、あの開示対象も、M&Aなんかが絡むNDAの時には、取引所(日本では私企業なので役所とかに含まれない…時々忘れそうになるのだが)とか、FAとかDDに関与する外部専門家とかまで含めるけど、それ以外のNDAではそこまでは不要なはず。
- いわゆる「立ち入り」とかdawn raidがあって、情報を持って行かれたときのことを考えると、官庁からの要請があって開示を余儀なくされたような場合について、開示されたのは仕方ないけど、事前又は事後にその旨を連絡せよ、と規定するのは、どこまで機能するかは結構微妙かも。立ち入りの密行性を維持する観点から、踏み込まれてどういう情報を持って行かれたか、ということ自体を外部に言うなという立ち入りした側から命令も出るかもしれないから。さすがにその指示には逆らえないだろうから…。性質上可能な限りとか何とか逃げを打つしかないのだろうけど。
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dtk1970 at 00:15|Permalink│Comments(0)
February 26, 2014
私家版 国際契約を学ぶためのブックリスト
BUのLLMで一緒だった、某弁護士さんから、概略次のような質問をいただいた。
「法務部員が国際取引を学ぶ入門書的なものとしておすすめはありますが?それと法務部員として英文ドラフトを勉強するのにお勧めの勉強法とか」
で、コメントはさせていただいたのだが、ついでなので、適宜加筆しながらエントリにしてみる。洋書については、それほど知らないので、和書で自分で勉強しようというところを前提としてご紹介してみる。紹介した本について、こちらのblogで、ご紹介したものは、そのエントリを、そうでないものは、アマゾンまたはその他にリンクも張っておく。どこかのタイミングでこの手のエントリを書いてみようかと思っていたので、渡りに船、というところ。
なお、以下は、現時点での私見なので、そのつもりでお読みいただきたく。さらに、今まで書いたことの繰り返しなので、長らくご愛顧いただいておられる方々にとっては退屈かもしれません。
*現時点の私見なので、過去に書いたエントリの内容とは必ずしも整合していないかもしれません。あしからず。
*現時点の私見なので、過去に書いたエントリの内容とは必ずしも整合していないかもしれません。あしからず。
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dtk1970 at 00:40|Permalink│Comments(0)
February 19, 2014
改訂版 契約実務と法-リスク分析を通して- /河村寛治 (著)
はっしーさんが以前褒めていた本。僕自身にとっては、なんだか相性が悪いというか、理由はよくわからないものの、どうも読み通せずにいて、気になっていた。今回改訂版が出たということで買って、一気に読んでみた。 一通り読んでみると、僕自身の印象としては、もともとの用途*1もあって、法学部なり法科大学院を出た人が契約法務、特にドメスティックな契約法務*2の業務に就くに際して最初に紐解くべき一冊、のうちの一つ、として有用、というところ。
単に理論的なこと、文言についてのみ書かれているわけではなく、その背後にある考え方、不可抗力とか契約解除のような契約書の一般条項について、なぜこのような条項が要るのか、条項を書く際に、どういうことを考えて書かないといけないのか、などを丁寧に説明してあるうえに、文言以外に気を付けるべきところについての記載もあるので、OJTツールとしても使いやすいのではないだろうか。契約実務総論、という感じでこの本を読み、その後、それぞれの契約分野の詳細については、それぞれの分野ごとにもっと詳しく書かれた書物をこの後に紐解くなどしてゆけばよいのではなかろうかと思う。*3
今回、債権法改正の状況を受けてのコメントや反社排除条項についての記載も追加されたので、特に前者については、契約書の見直し等を考えるうえで、件の改正(昨年末時点での話ではあるが…)がどういう影響を及ぼし得るのか、考えるうえでは有用なのではなかろうか。*4
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January 27, 2014
準拠法とかについて考えてみた。
BGMはこちらで(謎)。
それはさておき、いつもキャッチーな内容が素晴らしいはっしーさんのエントリーにコメントをしようと思ったら、字数が長すぎて一つのコメントにできなかったのでこちらでメモしてみる。
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それはさておき、いつもキャッチーな内容が素晴らしいはっしーさんのエントリーにコメントをしようと思ったら、字数が長すぎて一つのコメントにできなかったのでこちらでメモしてみる。
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January 25, 2014
December 22, 2013
December 18, 2013
今日のエアリプ(謎)
こちらのネットへのアクセスが限定的ということもあり、反応が遅れたのだが、某所で見かけた、プラットフォーム上での契約書の締結交渉、というアイデアについて、考えたことを五月雨式でメモしてみる。メモの内容が長くなったので、こちらで失礼する次第。
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December 15, 2013
ITリテラシーの底?
何だよそれ(謎)。
#このエントリは事前の仕込みです。すいません。
某カレンダー企画での、某先生のエントリを見て思ったことをメモ。まあ、こういう意見もあるということで。
wordで、契約書の条文の番号を機械的に触れるようにするというのは、いいアイデアなんだろうと思うし、有効性を否定する意図は一切ない。ただ、その一方で、こういう試みには一定の限界があるのかなという気がしている。つまり、契約書をめぐっては契約相手とのやり取りが生じるので、相手方が、こちらで行ったアレンジを理解して、そのアレンジを前提にして動いてくれないと、却って、事態をややこしくするのではなかろうか、と懸念するのである。特にMSWordの場合は、正直こちらの想定外の動きをすることがよくあるので、そういう懸念を禁じえない。
以前、某役所との契約で、こちらがwordファイルで送ったドラフトについて、送り返してきたものをみたら、実質的な面での変更はほとんどなかったものの、全文打ち直されていた。直された内容から判断するに、数字の半角・全角の区別とか、句読点の打ち方がお気に召さなかったとか、そういうあたりが原因らしい 。
また、修正履歴の機能も便利なんだけど、使い方がわからなかったからか、ぱっと身に修正履歴機能が使われたかのように見えつつ、実は、フォントを赤にして、下線引いてということをしていただいたのがあって、これも後からそこを元に戻すのが手間だったりしたこともあった。
要するに、その辺のお作法というかプロトコルが、関係者の間で共有されていないと、どうしてもこの種の自動化には限界がある、ということになるのではなかろうか。 まあ、関係者のITリテラシー(というほどのものかどうかはさておき)の一番低いところにあわせないとうまく機能しないというところが結論めいたところ。続きを読む
#このエントリは事前の仕込みです。すいません。
某カレンダー企画での、某先生のエントリを見て思ったことをメモ。まあ、こういう意見もあるということで。
wordで、契約書の条文の番号を機械的に触れるようにするというのは、いいアイデアなんだろうと思うし、有効性を否定する意図は一切ない。ただ、その一方で、こういう試みには一定の限界があるのかなという気がしている。つまり、契約書をめぐっては契約相手とのやり取りが生じるので、相手方が、こちらで行ったアレンジを理解して、そのアレンジを前提にして動いてくれないと、却って、事態をややこしくするのではなかろうか、と懸念するのである。特にMSWordの場合は、正直こちらの想定外の動きをすることがよくあるので、そういう懸念を禁じえない。
以前、某役所との契約で、こちらがwordファイルで送ったドラフトについて、送り返してきたものをみたら、実質的な面での変更はほとんどなかったものの、全文打ち直されていた。直された内容から判断するに、数字の半角・全角の区別とか、句読点の打ち方がお気に召さなかったとか、そういうあたりが原因らしい 。
また、修正履歴の機能も便利なんだけど、使い方がわからなかったからか、ぱっと身に修正履歴機能が使われたかのように見えつつ、実は、フォントを赤にして、下線引いてということをしていただいたのがあって、これも後からそこを元に戻すのが手間だったりしたこともあった。
要するに、その辺のお作法というかプロトコルが、関係者の間で共有されていないと、どうしてもこの種の自動化には限界がある、ということになるのではなかろうか。 まあ、関係者のITリテラシー(というほどのものかどうかはさておき)の一番低いところにあわせないとうまく機能しないというところが結論めいたところ。続きを読む
dtk1970 at 00:00|Permalink│Comments(3)
December 02, 2013
Advent Calendar企画:鍵をかけた雛形を使用した省力化?
相変わらずアイデア豊富な@kataxさんが、今年はちゃんと思い出したので、実現したAdvent Calendar企画(#legalAC)にのってエントリをば。諸般の都合で事前の仕込みで失礼。
(って、万が一のことがあるといやだから、事前に仕込んでおいたら、@katax氏にテキトーなことを書かれていたような気がする…何かムカつくのはどうしたものか。)
Advent Calendarの@kataxさんの予告を見ていて思いついたことをメモ。
(いちおう@kataxさんには事前に以下の草案を見せて、Okという話にはしてある…)
前にNDAについて書いたエントリにも関連するけど、NDAとか雛型のある契約については、固有名詞とかの記入欄以外のところにロックをかけて改変不能な形で供給して、それを埋めただけのものについては、審査不要という形式を取ることで、審査効率が多少は改善しないだろうかと思う。保証はしないけど。 もちろん、多少煩い相手であればそういう策を弄しても通じないから、そこに対してはやむなくきっちりお相手させていただくことになるのだろうが、相手が全部そういうところまで細かいならいざ知らず、そうでなければ一定程度効率化が図れるのではないだろうか。
一番厄介なのは、あたかも変えていない風を装って、ロック解除の要求もないけど、よくみると実は全部打ち直してあって、かつ一部自社の都合に応じて改変してあるというパターンで、それに対しては、チェックデジット、とまでは行かなくても、一部誤字をまぜておいて…というパターンとかも考えられなくはない。ただ、そこまでやってると、きっと効率が改善しないので、そこは割り切るということになろうか。
続きを読む
(って、万が一のことがあるといやだから、事前に仕込んでおいたら、@katax氏にテキトーなことを書かれていたような気がする…何かムカつくのはどうしたものか。)
Advent Calendarの@kataxさんの予告を見ていて思いついたことをメモ。
(いちおう@kataxさんには事前に以下の草案を見せて、Okという話にはしてある…)
前にNDAについて書いたエントリにも関連するけど、NDAとか雛型のある契約については、固有名詞とかの記入欄以外のところにロックをかけて改変不能な形で供給して、それを埋めただけのものについては、審査不要という形式を取ることで、審査効率が多少は改善しないだろうかと思う。保証はしないけど。 もちろん、多少煩い相手であればそういう策を弄しても通じないから、そこに対してはやむなくきっちりお相手させていただくことになるのだろうが、相手が全部そういうところまで細かいならいざ知らず、そうでなければ一定程度効率化が図れるのではないだろうか。
一番厄介なのは、あたかも変えていない風を装って、ロック解除の要求もないけど、よくみると実は全部打ち直してあって、かつ一部自社の都合に応じて改変してあるというパターンで、それに対しては、チェックデジット、とまでは行かなくても、一部誤字をまぜておいて…というパターンとかも考えられなくはない。ただ、そこまでやってると、きっと効率が改善しないので、そこは割り切るということになろうか。
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dtk1970 at 00:00|Permalink│Comments(0)
December 01, 2013
Warranty vs. Indemnity
動画ネタで失礼。JDsupraで見つけたもの。WarrantyとIndemnityの違いについてわかり易く説明してくれているので、ご紹介。弁護士さんがお嬢さんに描いてもらったイラストでわかり易く説明しているシリーズのひとつ。英語もクリアで、短いので気楽に見られるのもいい感じ。
dtk1970 at 21:42|Permalink│Comments(0)
November 30, 2013
トンデモ“IT契約"に騙されるな /上山 浩 (著), 日経コンピュータ (編集)
本屋で最初見たときに、表紙の色遣いからなんとなく手に取るのを躊躇ったのだけど、はっしーさんのエントリ(及びそこで引用されている伊藤先生のエントリとhitorihoumuさんのエントリ)を見て、買ってみた。法務の人というよりも開発現場にいる人に契約についてのリテラシーを高めてもらうことを念頭に書かれた本だけど、法務の人にとっても、読んでおいて良い一冊だろうと思う。IT契約については、どんな企業も発注者側になることが想定されるので、別にIT系企業の法務の人に限らず、ということになると思う。
買ったきっかけは、はっしーさんのエントリにあった、瑕疵担保についての解説がわかりやすいというコメントで、そこに限らず全般的にわかりやすい。開発現場での経験を積まれてから弁護士になられ、弁護士としても開発がもめた案件を担当されている著者が、IT系の雑誌に連載した内容が元になっているのだから、当然なのだろうけれど、はっしーさんの指摘にあるように、法務担当者でも理解しているとは限らないし、わかり易いのだから、理解に自信がなければ読んでおいて損はないと思う。僕自身も、幸い今まで瑕疵担保責任についての法的な性質などについて議論をする場面に行き当たったことがないこともあり、理解に危ういところがあったのも事実で、読んでよかったと思う。
全般を通じて、ユーザーサイドにたって、「トンデモ」な契約をすることのないように、考え方を丁寧に説明してくれているのだけど、泥棒にも三分の理、ではないが、ベンダーがそういう「トンデモ」を言い出すのにも、なんらかの理由があるのかもしれないと思うし、ベンダーとユーザーの間での相互理解がまだまだ足りていないから、「トンデモ」契約を結ぼうと画策したり、結んだ結果トラブルになる、ということなのではなかろうかと思う。もちろん、それについては、ユーザー側の無理解や不勉強ということもあるだろうが。いずれにしても、相手のことも理解したうえで、リスクは十分認識したうえで、契約にいたれるよう、率直に話をすることが重要なのではなかろうか、という印象を受けた。
ちなみに、はっしーさんの今回のエントリで言及されている前のエントリも読んで、もう一つ思ったのは、この本でも書かれているように、商行為である請負についての瑕疵担保期間について、商法526条がデフォルトルールとして適用されるべき、というのは、確かに?な話だと思う。とはいうものの、請負と売買の区別が常に明らかとも限らないこともあり、かつ、請負か売買かで瑕疵担保期間に差異が出ることも違和感があるということから、民法に従った1年の瑕疵担保期間が長すぎるのであれば、商法526条の内容を踏まえて、瑕疵担保期間を半年にしてほしいという交渉はやはりするだろうなあ、と思うのでありました。前記の違和感そのものはそれなりに理解できると思いますし。ただ、論理構成というか、交渉の仕方という意味ではむしろビジネス判断に基づくものになるのですが…。
dtk1970 at 21:00|Permalink│Comments(0)
November 25, 2013
NDAについてのメモ
#予約投稿しております。
週末につぶやいたことのまとめ、というか、補足込みで、書いてみる。
ビジネスの入り口のところで取り交わすことが多いのがNDAで、そのために、件数も多く、処理も急ぐということが多いように思う。
週末につぶやいたことのまとめ、というか、補足込みで、書いてみる。
ビジネスの入り口のところで取り交わすことが多いのがNDAで、そのために、件数も多く、処理も急ぐということが多いように思う。
ある意味で内容は定型的なはずなので、いちいち法務で面倒見なくても担当する事業部門で完結できないかという気もする。もちろん、当該事業部門で適切に判断できる能力があるものと考えることができるというのが前提だろうけれど。
ただ、最初のところできちんと対応できておらずに、問題がある内容のまま締結されると、後から軌道修正するのには手間もかかるし、場合によっては交渉材料として、避けられたはずの譲歩を余儀なくされるというケースもあるかもしれない。あと、複数の事業部門間で同じ情報を使う場合、特定の事業部門の判断が他の事業部門の活動にマイナスの影響を及ぼす可能性も考えられるだろうし、そういうときは、本社機能の部門として法務が調整役に入るということも必要になるかもしれないと思う。
それとは別に、NDAと書いてあっても、内容をみると実は共同研究契約とか共同開発契約と評するべきものだったりする可能性もあるのではないかと思う。実際過去の職歴において、そういうものを見たことがないわけではない(その時は実質に応じた対応をしたと記憶している)。NDAとタイトルをつけておけば法務の審査が不要、となると、事業部門側でタイトルだけNDAとつけることを考える人が出てきてもおかしくない。急いでビジネスをまとめる方向に重きを置く人がそういうことをすることは一概には責められないように思う。
そんなこんなを考えると、NDAだから、というくくり方をせずに、もうちょっと細かい基準を設けて、それに基づいて層別管理をするというのが、省力化の観点からは良いのかもしれない。
dtk1970 at 22:00|Permalink│Comments(4)
November 08, 2013
国際的法律文書の作成―英文契約書を中心として / 中島暁 (著)
漸く一通り目を通し終わった。メーカー法務OBの手によるもので、グローバル化の中で、英米以外の国の人が英語を使って契約書などの法律文書を作成し、それを運用する際の注意事項の解説が興味深い。
いろいろ細かいところで気になるところはあるものの、ある程度書物も読んで、英語の法律文書を読み書きするのに心理的抵抗がなくなって、一定程度の文書が読み書きできると思えるようになったという感覚があるレベルより上のレベルの人が、さらに一歩前に、レベルを上げるうえで有用な本、というところだろう。ある程度英文での契約書その他の法律文書を読み書きできるようになった人向けという印象で、ある程度実務経験がないと読んでも理解しにくいのではなかろうか。早稲田の法学部での授業でのテキストに基づいているようだけど、内容はすばらしい反面、ビジネス経験のない学生さんにこの内容がどこまで伝わるのかはやや疑問。
その一方で、僕にはよさげ、というか読みながら勉強不足が刺さる感じ。ベテランの引き出しの多さを堪能するというか、教えを乞う感覚で読むのが良いのではないかと思う。
いろいろ細かいところで気になるところはあるものの、ある程度書物も読んで、英語の法律文書を読み書きするのに心理的抵抗がなくなって、一定程度の文書が読み書きできると思えるようになったという感覚があるレベルより上のレベルの人が、さらに一歩前に、レベルを上げるうえで有用な本、というところだろう。ある程度英文での契約書その他の法律文書を読み書きできるようになった人向けという印象で、ある程度実務経験がないと読んでも理解しにくいのではなかろうか。早稲田の法学部での授業でのテキストに基づいているようだけど、内容はすばらしい反面、ビジネス経験のない学生さんにこの内容がどこまで伝わるのかはやや疑問。
その一方で、僕にはよさげ、というか読みながら勉強不足が刺さる感じ。ベテランの引き出しの多さを堪能するというか、教えを乞う感覚で読むのが良いのではないかと思う。
参考になった指摘をいくつかメモ(一方でlaw of conflict of lawsをめぐる一連の話は正直難しくてついてゆききれなかった。無念。)
続きを読む- 日本語ー英語間でも似たような英語がある際に、厳密にいうとあるはずの差異を無視していると落とし穴にはまる危険があることも示唆も有益かと。消滅時効とstatute of limitationとか相殺とset-offとか…。
- 日本の調停とアメリカのmediationの違い:前者は合意がまとまれば民事調停法により合意書面に執行力があるが、後者はそういうものがない、というのは、意識したことがなかった。
- p128に、ユニドロア国際商事契約原則をそのまま準拠法として指定すると、オレゴン州ではそれが認められるとのこと。こちらをみると確かにそうなりそう...。
- ネットでの通信などの発達により裁判管轄が不明瞭になり、契約にどういう法律が適用されるか予想しにくいからこそ、適用された法律により契約の各条項が無効とされたときに備える意味で分離条項は有用との指摘(p145)。
- 米国企業相手に米語で交渉するときには、法律・契約用語にこだわり過ぎないほうがよい場合もある(p177)。程度問題はあるにしても、別に米国企業に限った話ではないような。専門用語を使わなくても済むときは使わずに済ませるのもひとつの手というのはどこでも一緒のような気がするけど。
- 第2編の用語集も、似たような用語との異同・差異の説明が興味深い。best effortsについて英国・豪州と米国などの解説はへーって感じなのだが、判例とかを踏まえてのコメントの場合はその辺の出所を示してくれるとなお良かったかもしれない。optionとdiscretionは、選択してもしなくてもよい場合はdiscretionの方が良い、とかの指摘も興味深かった。
dtk1970 at 00:52|Permalink│Comments(0)
October 29, 2013
セミナー:反社会的勢力との関係遮断に伴うリスクと実務対応
という題名の経営法友会のセミナーに出た。商事法務から書籍が出たということもあってのセミナーだった模様(結局買ったし。まだ読んでいないけど)。ネタバレ?になるとまずいので、感想だけメモ。いつも以上の盛況で驚いた。
- 広島市営住宅事件で最高裁が暴排条項の有効性を認めているとのことで、不勉強でそれは知らなかった。通常のビジネスの文脈ではまあ、この種の条項の有効性は認められているのだろうけれど、個人の生き死にに関するところでは、それでもなお、憲法上疑義があるのではないかという気がしないでもない。子女の給食費とかのみの支払に使っているような銀行口座の開設までできないとなると、親を選べない子女に、避けがたい不利益が及ぶことになるのはそう簡単に正当化できるのだろうか、という気がする。(話を聴きながら「君の生まれの不幸を呪うがいい」というシャアのことばが脳裏をよぎったのであった)
- 前記の点に関連するが、会場から、医療機器メーカーの方から、医師経由で患者に医療機器を貸与するケースにおいても患者が暴力団関係者であることを理由に取引遮断が可能なのか、という質問があり、この点については、医師法上の医師の義務及び当該義務を果たすうえで必要な機器などは提供されるべきというところから、対応は慎重に考える必要があるというコメントだった。さすがに、この部分については、他の部分と異なり、歯切れがよくなかったように感じた。
- 排除に関連して、関係遮断のための契約解除前に何らかの理由によりこちらの秘密情報を開示していたことが判明している場合、単に契約を解除して有体物の回収・情報の削除を約したとしても、実効性に疑問もあるが、それに加えて、関係者に記憶が残る部分についてどのように対応するか疑問に思ったのだが、解除時に合意書を取り交わすのであればその中で何らかの対応をすることもありうるが、それと別に、何かあったら、不正競争防止法に基づいて仮処分などの法的対抗措置を取ることが考えられるとのコメントがあった。
dtk1970 at 20:41|Permalink│Comments(0)
October 03, 2013
割り切ったお付き合い?
いや、その気の迷いで…(苦笑)。
いつもキャッチーなはっしーさんの呟きから。
値段表を見ると、一番安いサービスは、20p以内の契約書をソリシターが見て、内容の単なる要約と問題点の指摘をしたレポートを、72時間以内に返信するというもの。redlineで修正したものをもらう or もっと長い契約書を見てもらうには追加の支払がいるようだ。
そもそもon lineの弁護士事務所とかではなく、契約書の書面を見る以上のサービスはしないし、見る契約書の種類も限定して、何か起きても料金返金以上のサービスはしない(Terms Of Use参照:このTerms Of Useは平易で読みやすいと思う)。オフィスがバミューダにあって、利用規約の準拠法もLaws of Bermudaとあるのが何とも...
work-life-balanceの観点から、何らかの事情で働き方に制約のある方向けには悪くないビジネスモデルなのではなかろうか。たとえば、お年を召された先生方がスムースにリタイアする過程で取る中間的な働き方のモデルとしてもアリなのではなかろうか。
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いつもキャッチーなはっしーさんの呟きから。
このサービスについてちょっと見てみたので、感想とかをメモ。セミリタイアや育児中の事務弁護士が、9割引の価格&48時間以内というスピードで契約書レビューを返すサービスが英国で。 http://t.co/GYrnMpsgMS
— Takuji Hashizume (@takujihashizume) October 2, 2013
値段表を見ると、一番安いサービスは、20p以内の契約書をソリシターが見て、内容の単なる要約と問題点の指摘をしたレポートを、72時間以内に返信するというもの。redlineで修正したものをもらう or もっと長い契約書を見てもらうには追加の支払がいるようだ。
そもそもon lineの弁護士事務所とかではなく、契約書の書面を見る以上のサービスはしないし、見る契約書の種類も限定して、何か起きても料金返金以上のサービスはしない(Terms Of Use参照:このTerms Of Useは平易で読みやすいと思う)。オフィスがバミューダにあって、利用規約の準拠法もLaws of Bermudaとあるのが何とも...
work-life-balanceの観点から、何らかの事情で働き方に制約のある方向けには悪くないビジネスモデルなのではなかろうか。たとえば、お年を召された先生方がスムースにリタイアする過程で取る中間的な働き方のモデルとしてもアリなのではなかろうか。
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dtk1970 at 19:54|Permalink│Comments(0)
September 13, 2013
non-diverse defendant?
たまには他人様のblogに、ちょっかいを出してみるかと…。いつも拝読している「総務&法務担当の部屋」でのエントリにコメントというかなんというか。以下のところでnon-diverseという部分やDistrict courtが複数あるのがわからないとのこと。で、いくつか推測をば。
以下、アメリカ法での議論で考えてみます(間違っていたらご指摘いただきたく>各位)。
* 手元にある英米法辞典を参照しています。ネット上にあるものでは英文ですが、Diversity Jurisdictionの記載@wikipediaがよさそうです。
連邦制の下、連邦裁判所と州裁判所と裁判所の系統が二系列あり、同じ州内に双方のDistrict Courtがあるところ(第一審の裁判所という意味で使っているのではないかと思います)、後者ではなく前者にany such actionを裁いてほしいと考えているという想定をしているのだと思います。
その際には、連邦裁判所の管轄となるためにはdiversity jurisdiction(ざっくりいうと州をまたぐ話にならないと連邦裁判所にいけないということ、という感じですかね)を満たすことをまず考えているということなのではないかと思われるわけです。アメリカ合衆国憲法のArticle III section 2(邦訳はこちら)を受けて規定されている28 USC 1332に詳細があるようですが、原告または被告の間で州を同じくするものがあると、diversity jurisdictionが成り立たない(よって州の裁判所の管轄になる)ということになるはずです。diversity jurisdictionを不成立にするような被告という意味でnon-diverse defendantという表現がとられているのではないかと考えます。
そう考えると上記の文中のDistrict Courtのうち、後者は州のDistrict Courtを、前者はおそらく同じ州内に所在する連邦のDistrict Courtを指すのではなかろうかと考えます。
…こんな感じで推測してみたのですが、どうでしょうか>作者の方
The parties agree that any such action shall be filed in the District Court A. If the presence of a non-diverse defendant precludes subject-matter jurisdiction in that court, then exclusive venue shall be in the District Court A準拠法がインドネシア法の契約、ということですが、diverseかどうかというと、アメリカ法の議論が念頭にあるような気がします。インドネシアも連邦制の国家ということで、こういう用語の使い方をしているのかもしれないと思ったりします。さすがにその辺はこの文案だけではよくわかりませんが。
以下、アメリカ法での議論で考えてみます(間違っていたらご指摘いただきたく>各位)。
* 手元にある英米法辞典を参照しています。ネット上にあるものでは英文ですが、Diversity Jurisdictionの記載@wikipediaがよさそうです。
連邦制の下、連邦裁判所と州裁判所と裁判所の系統が二系列あり、同じ州内に双方のDistrict Courtがあるところ(第一審の裁判所という意味で使っているのではないかと思います)、後者ではなく前者にany such actionを裁いてほしいと考えているという想定をしているのだと思います。
その際には、連邦裁判所の管轄となるためにはdiversity jurisdiction(ざっくりいうと州をまたぐ話にならないと連邦裁判所にいけないということ、という感じですかね)を満たすことをまず考えているということなのではないかと思われるわけです。アメリカ合衆国憲法のArticle III section 2(邦訳はこちら)を受けて規定されている28 USC 1332に詳細があるようですが、原告または被告の間で州を同じくするものがあると、diversity jurisdictionが成り立たない(よって州の裁判所の管轄になる)ということになるはずです。diversity jurisdictionを不成立にするような被告という意味でnon-diverse defendantという表現がとられているのではないかと考えます。
そう考えると上記の文中のDistrict Courtのうち、後者は州のDistrict Courtを、前者はおそらく同じ州内に所在する連邦のDistrict Courtを指すのではなかろうかと考えます。
…こんな感じで推測してみたのですが、どうでしょうか>作者の方
dtk1970 at 00:11|Permalink│Comments(3)
September 12, 2013
身の丈にあわせる
例によって例のごとく、ぼんやり思ったことのメモ。前にも似たようなことを書いたかもしれないが…。
取締法規に反する可能性があるために、出来てもらわないと困るようなケースを別にすれば(その場合は別の議論がいるだろう)、自分ができもしないことを契約書に書くことは原則として、避けるべきなのだろう。 そういう意味で、自分の立つ方の契約の履行能力の見極めも重要なのではなかろうか。
相手から承認依頼が来て、それに対してこちらが一定日数以内に承認をして、それに基づいて相手が作業をするとかいう流れで業務が進むようなケースで、どんな細かい変更についても承認を要するとしたら、承認をするこちら側のマンパワーが不足して、承認が遅れ、それゆえに、相手の作業開始が遅れて…というのでは、相手に最後の期日を守らせる義務を課していたとしても、こちらが期日を守るために必要な協力をせず、妨害していたとかいう話になりかねない。
自分の足元をきちんと見据えて、身の程にあった形にしておかないと、空を見てきれいに整えただけの文言に足を掬われることになりかねないのではないか、そんなことを思う秋の夕暮れなのでありました。
取締法規に反する可能性があるために、出来てもらわないと困るようなケースを別にすれば(その場合は別の議論がいるだろう)、自分ができもしないことを契約書に書くことは原則として、避けるべきなのだろう。 そういう意味で、自分の立つ方の契約の履行能力の見極めも重要なのではなかろうか。
相手から承認依頼が来て、それに対してこちらが一定日数以内に承認をして、それに基づいて相手が作業をするとかいう流れで業務が進むようなケースで、どんな細かい変更についても承認を要するとしたら、承認をするこちら側のマンパワーが不足して、承認が遅れ、それゆえに、相手の作業開始が遅れて…というのでは、相手に最後の期日を守らせる義務を課していたとしても、こちらが期日を守るために必要な協力をせず、妨害していたとかいう話になりかねない。
自分の足元をきちんと見据えて、身の程にあった形にしておかないと、空を見てきれいに整えただけの文言に足を掬われることになりかねないのではないか、そんなことを思う秋の夕暮れなのでありました。
dtk1970 at 00:05|Permalink│Comments(0)
September 04, 2013
何に動かされているのか
以前書いたエントリの裏返しというかなんと言うか…。 相変わらずのよくわからないメモですいません。
契約交渉に限らず、交渉ごと(対外、対内問わず)をどう進めていくうえでは、相手方の置かれている制約条件を意識するのと同様に、何が相手方のモチベーションになるのか、受け入れの要因になるかは重要ではないかと思ったりする。そのうえで、こちらから提案するものが、そういうモチベーション、要因に照らして、受け入れるメリットを感じられる案ではないのであれば、交渉をまとめるのは難しいものにならざるを得ない、と思う。
加えて、こちらの案を受け取った相手の担当者が自社内を説明、説得することができるような内容になっているか、ということも考えないといけないのかなとも思ったりする。件の担当者が稟議書を起案して、それが内部承認されるようなものでなければ、結果的にスタックするだけになることを覚悟する必要があるように思う。
もちろん相手の状況についての想定には限界があるが、想定をしてみることも重要なのではないかと思う。
きわめて当たり前のことだと思いつつも、当たり前のことが常にできているとは限らないということもあり、備忘の意味でメモしておく。
契約交渉に限らず、交渉ごと(対外、対内問わず)をどう進めていくうえでは、相手方の置かれている制約条件を意識するのと同様に、何が相手方のモチベーションになるのか、受け入れの要因になるかは重要ではないかと思ったりする。そのうえで、こちらから提案するものが、そういうモチベーション、要因に照らして、受け入れるメリットを感じられる案ではないのであれば、交渉をまとめるのは難しいものにならざるを得ない、と思う。
加えて、こちらの案を受け取った相手の担当者が自社内を説明、説得することができるような内容になっているか、ということも考えないといけないのかなとも思ったりする。件の担当者が稟議書を起案して、それが内部承認されるようなものでなければ、結果的にスタックするだけになることを覚悟する必要があるように思う。
もちろん相手の状況についての想定には限界があるが、想定をしてみることも重要なのではないかと思う。
きわめて当たり前のことだと思いつつも、当たり前のことが常にできているとは限らないということもあり、備忘の意味でメモしておく。
dtk1970 at 22:03|Permalink│Comments(0)
August 25, 2013
営業日
恥ずかしいミス?をしたので、ネタにして元を取ろうかと(意味不明)。
前に書いたとおり、X230のキートップの交換は無事に終わったのだけど、残務として交換後の壊れたパーツの回収というのが残っている。期限が5日後となっていたが、回収に指定の業者が来ないなあ、と思って業者に電話をしても、まだ連絡が来ていないと言う。?と思ってサポートセンターに電話をしたら、5日、ではなくて5営業日で、それはまだ経過していない、ということだった。なんともはや。
で、思い出したのが「営業日」というやつだ。
前にこの辺のことを書いたかもしれないが、もう一度書いてみよう(投げやり)。
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前に書いたとおり、X230のキートップの交換は無事に終わったのだけど、残務として交換後の壊れたパーツの回収というのが残っている。期限が5日後となっていたが、回収に指定の業者が来ないなあ、と思って業者に電話をしても、まだ連絡が来ていないと言う。?と思ってサポートセンターに電話をしたら、5日、ではなくて5営業日で、それはまだ経過していない、ということだった。なんともはや。
で、思い出したのが「営業日」というやつだ。
前にこの辺のことを書いたかもしれないが、もう一度書いてみよう(投げやり)。
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dtk1970 at 18:20|Permalink│Comments(0)
August 14, 2013
アリコジャパンの競業避止義務違反事件
アリコジャパンの競業避止義務違反が争われた裁判例を読んでみたので感想などをメモ。地裁では競業避止条項違反による退職金の不支給についての条項の有効性が否定されたが、高裁でも、その判断が維持されて控訴棄却となっていた。
(外資系企業の労務関係の事件というと、どうしても気になってしまうのだった...。)
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(外資系企業の労務関係の事件というと、どうしても気になってしまうのだった...。)
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dtk1970 at 20:31|Permalink│Comments(0)
August 09, 2013
何に縛られているのか
例によって例のごとく謎なタイトルですいません。例によって思いつきのメモ。
対外的な交渉にしろ、対内部的なあれこれにしろ、自分が話をしている相手方が言っていることが、ぱっと見には理解しがたいことがあったりする。その他のところで論理的であるにも拘らず、特定のところでのみ首尾一貫性が破綻しているように見えたりすると疑問が残ったりする。
そういうときは、ひょっとすると、相手側の制約要因を見落としているのかもしれない、と思ったりする。相手方が一定の制約の中で動いている(企業の「中の人」であれば、普通はそうだろう。企業以外の場合でもそうだろうけど)ときに、その制約要因から行動様式が規定され、目の前に見えている行動につながっている、というところが見えていないということになっているのかもしれない。それがわかれば、その制約要因が短期的に何とかならないとなると、それを前提にこちらの対応を組み立てることができるかもしれないし、それにより膠着しているものの打開ができるかもしれない(常にできるとは限らないのはいうまでもない)。
そんなこんなを考えつつ、相手方の「次」を考えたりするわけだけど、そういう制約要因を推定するうえでは、想像力も必要だけど、その前提となる情報も重要で、情報もないのに想像しても単なる妄想でしかなくなって、あんまり有用ではないかもしれない。
もちろん、何かに縛られているのは相手だけではなく、自分だって同じはずで、それが何かを意識することも、同様に、時としてそれ以上に重要になるかもしれない。見落としている選択肢や可能性に気づくことができるかもしれないので。といっても、自分自身を縛っているものが何か、というのは自分のことだけに、難しい面もあるような気がしている…。
…というようなことをぼんやり思う今日この頃。
対外的な交渉にしろ、対内部的なあれこれにしろ、自分が話をしている相手方が言っていることが、ぱっと見には理解しがたいことがあったりする。その他のところで論理的であるにも拘らず、特定のところでのみ首尾一貫性が破綻しているように見えたりすると疑問が残ったりする。
そういうときは、ひょっとすると、相手側の制約要因を見落としているのかもしれない、と思ったりする。相手方が一定の制約の中で動いている(企業の「中の人」であれば、普通はそうだろう。企業以外の場合でもそうだろうけど)ときに、その制約要因から行動様式が規定され、目の前に見えている行動につながっている、というところが見えていないということになっているのかもしれない。それがわかれば、その制約要因が短期的に何とかならないとなると、それを前提にこちらの対応を組み立てることができるかもしれないし、それにより膠着しているものの打開ができるかもしれない(常にできるとは限らないのはいうまでもない)。
そんなこんなを考えつつ、相手方の「次」を考えたりするわけだけど、そういう制約要因を推定するうえでは、想像力も必要だけど、その前提となる情報も重要で、情報もないのに想像しても単なる妄想でしかなくなって、あんまり有用ではないかもしれない。
もちろん、何かに縛られているのは相手だけではなく、自分だって同じはずで、それが何かを意識することも、同様に、時としてそれ以上に重要になるかもしれない。見落としている選択肢や可能性に気づくことができるかもしれないので。といっても、自分自身を縛っているものが何か、というのは自分のことだけに、難しい面もあるような気がしている…。
…というようなことをぼんやり思う今日この頃。
dtk1970 at 22:53|Permalink│Comments(0)
July 22, 2013
関連会社の扱いについて
いつもながらの謎なタイトルですいません。素朴な疑問というかなんと言うかのメモ。
契約当事者の企業とは別にその会社の関連会社(定義はさておき)が契約の中で出てくるケースがある。一例を挙げると、NDAとかで情報を関連会社で共有する、とかそういうケース。
関連会社がかかわることそれ自体は、まあありうることなのかな、と思うのだけど、その会社がどこなのか、書面上明らかにならないケースがある。子会社だの孫会社だのいちいち書いているとその間で機動的な再編をする際にいちいち契約書上の対応が出てくるから煩雑なので避けたいということらしい。
それとは別に、NDAで、そういう一番の親会社さんがサインして、関連会社と情報を共有するという場合に、その関連会社を代表して、というような形で(英文であれば、たとえば親会社名の後ろにon behalf of it affiliatesとか書くわけですね…実際はaffiliatesの定義とかもうちょっといろいろ書くこともありますが、それはさておき)当事者欄を記載して締結しようと提案すると、子会社を拘束する権限はない、というような理由で、そういう書き方は拒否されて、ただし、何か問題が生じたら親会社が責任を持つ、というところで対応したいという話も出てくることもある。
どちらも理解しなくはないのだが、相手方として受けていいのかというとやや疑問が残る。後者のケースでは、当事者とかにしておかずにいると、関連会社の一社でたとえば秘密漏洩とかの問題が出てきたときに、ダイレクトに仮処分とかかけることができないのではないか、という疑問が生じる。間に人が入るとタイムラグが生じる可能性があるので、金銭損害で片がつかないような秘密情報が絡むときに疑問が残るような気がする。前者の場合については、その辺が煩雑とか言っているようだと、そもそもそれらの会社に対して機密情報の管理ができているのだろうか、というところも気になる。
・・・この辺は、「選択と集中」もあって、そもそもそれほど子会社とかのない外資の日本法人にいるから、そういう風に見えるという面があると思うが、最近疑問に思うことなのでメモしておく。
契約当事者の企業とは別にその会社の関連会社(定義はさておき)が契約の中で出てくるケースがある。一例を挙げると、NDAとかで情報を関連会社で共有する、とかそういうケース。
関連会社がかかわることそれ自体は、まあありうることなのかな、と思うのだけど、その会社がどこなのか、書面上明らかにならないケースがある。子会社だの孫会社だのいちいち書いているとその間で機動的な再編をする際にいちいち契約書上の対応が出てくるから煩雑なので避けたいということらしい。
それとは別に、NDAで、そういう一番の親会社さんがサインして、関連会社と情報を共有するという場合に、その関連会社を代表して、というような形で(英文であれば、たとえば親会社名の後ろにon behalf of it affiliatesとか書くわけですね…実際はaffiliatesの定義とかもうちょっといろいろ書くこともありますが、それはさておき)当事者欄を記載して締結しようと提案すると、子会社を拘束する権限はない、というような理由で、そういう書き方は拒否されて、ただし、何か問題が生じたら親会社が責任を持つ、というところで対応したいという話も出てくることもある。
どちらも理解しなくはないのだが、相手方として受けていいのかというとやや疑問が残る。後者のケースでは、当事者とかにしておかずにいると、関連会社の一社でたとえば秘密漏洩とかの問題が出てきたときに、ダイレクトに仮処分とかかけることができないのではないか、という疑問が生じる。間に人が入るとタイムラグが生じる可能性があるので、金銭損害で片がつかないような秘密情報が絡むときに疑問が残るような気がする。前者の場合については、その辺が煩雑とか言っているようだと、そもそもそれらの会社に対して機密情報の管理ができているのだろうか、というところも気になる。
・・・この辺は、「選択と集中」もあって、そもそもそれほど子会社とかのない外資の日本法人にいるから、そういう風に見えるという面があると思うが、最近疑問に思うことなのでメモしておく。
dtk1970 at 23:15|Permalink│Comments(0)
July 04, 2013
変な前例を防ぐ?
例によってアレなタイトルですいません。
拝読しているこちらのblogのこのエントリを拝見して、思いついたことをメモ。
ドラフティングとか契約書の審査で、法務側の対応が過度にならないようにするよう考えるのはそれなりに重要と思っている。その意味で、エントリの中で、個別案件ごとに最適化したリスクマネジメントされた形になるのが望ましいというご指摘はそのとおりと思うのだが、一方で、一回限りの契約であれば、おそらくそれで問題ないものの、同種の契約を同じ相手と他の状況で締結するようなケースでは、そうとばかりも言っていられないのではないかという気もしているのである。要するに、一回特定の文言で妥協が成立したような場合、その文言が個別の取引の文脈から切り離された形で一人歩きして、爾後の取引において「前例」として機能して、そこからゆり戻しがしにくくなる可能性を懸念しているというわけ。
そういう「前例」の使い方というのは、ある意味契約交渉のテクニックとして、一概に否定すべきものでもない。ただ、有利にも不利にも作用しうるのが難しい。文脈がわかっていれば、このケースではこうだったが、今回のケースでは前提が異なるから、同じ文言は使えないという議論をして切り抜けることもできるだろうが、その辺の情報が常にあるとは限らない。グローバルな取引をしていると、日本法人とは関係ない契約の文言が「前例」として出てくることも想定しうる。親会社がOKしているのに、なぜ日本法人はできないのか、とか言われても、判断しにくい場合も出てくる。
そういうことが問題となるときには、往々にして、営業サイドのように、とにかく話をまとめることに重点を置く人たちから、そういう前例があるからいいのではないか、という批判めいたものが来ることもある。一概にそれを難じるべきではないものの、誰に向かって説得をしないといけないのかも怪しくなってくる。
そんなこんなを考えると、個別案件だけを考えていてよいのだろうかというところでも悩むし、そこまで考えた上での手加減というのは、いつも難しいと思ってしまうのであった。
拝読しているこちらのblogのこのエントリを拝見して、思いついたことをメモ。
ドラフティングとか契約書の審査で、法務側の対応が過度にならないようにするよう考えるのはそれなりに重要と思っている。その意味で、エントリの中で、個別案件ごとに最適化したリスクマネジメントされた形になるのが望ましいというご指摘はそのとおりと思うのだが、一方で、一回限りの契約であれば、おそらくそれで問題ないものの、同種の契約を同じ相手と他の状況で締結するようなケースでは、そうとばかりも言っていられないのではないかという気もしているのである。要するに、一回特定の文言で妥協が成立したような場合、その文言が個別の取引の文脈から切り離された形で一人歩きして、爾後の取引において「前例」として機能して、そこからゆり戻しがしにくくなる可能性を懸念しているというわけ。
そういう「前例」の使い方というのは、ある意味契約交渉のテクニックとして、一概に否定すべきものでもない。ただ、有利にも不利にも作用しうるのが難しい。文脈がわかっていれば、このケースではこうだったが、今回のケースでは前提が異なるから、同じ文言は使えないという議論をして切り抜けることもできるだろうが、その辺の情報が常にあるとは限らない。グローバルな取引をしていると、日本法人とは関係ない契約の文言が「前例」として出てくることも想定しうる。親会社がOKしているのに、なぜ日本法人はできないのか、とか言われても、判断しにくい場合も出てくる。
そういうことが問題となるときには、往々にして、営業サイドのように、とにかく話をまとめることに重点を置く人たちから、そういう前例があるからいいのではないか、という批判めいたものが来ることもある。一概にそれを難じるべきではないものの、誰に向かって説得をしないといけないのかも怪しくなってくる。
そんなこんなを考えると、個別案件だけを考えていてよいのだろうかというところでも悩むし、そこまで考えた上での手加減というのは、いつも難しいと思ってしまうのであった。
dtk1970 at 22:23|Permalink│Comments(0)
June 12, 2013
NDAをめぐるエトセトラ
ダンスはうまく踊れない(謎)。
独特のノリで、楽しませていただいている企業法務アシスタントサバイバルさん(この題名はやはり…なんでしょうか?)で、募集されていたので、ちょっと考えてみた。
募集内容は次のとおり。
僕の意見だけではあれなので(滝汗)、もっとマトモなプロの方のご意見という意味では、猪木先生のこちらをご覧あれ。
続きを読む
独特のノリで、楽しませていただいている企業法務アシスタントサバイバルさん(この題名はやはり…なんでしょうか?)で、募集されていたので、ちょっと考えてみた。
募集内容は次のとおり。
みなさんどうやって秘密保持契約書作成されているのか教えて下さい。 気を付けてることとか!どうやって仕事してきたかとか!現職では、自分でNDAの審査とか、あまりしなくなっているので、いまいち記憶が曖昧ですが、頭にあることをいくつかメモしてみることにしようかと。
僕の意見だけではあれなので(滝汗)、もっとマトモなプロの方のご意見という意味では、猪木先生のこちらをご覧あれ。
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dtk1970 at 00:13|Permalink│Comments(0)
June 06, 2013
あいまいさのコントロール
ということの重要性を改めて実感する今日この頃。以下自分用のメモ。
ぼかした書き方しかしにくいのだけど(ついでに、前にも似たようなことを書いたかもしれないけど)、契約書にしてもそれ以外にしても、つい、決められることはなるべくはっきり決めて書いておくことを考えてしまう。そういうところで漏れがあれば、「この点はどうなってる?」と訊くべきと考えるし。
それ自体悪いことではないけれど、将来について予測可能なことには限度があることを考えると、決めないでおくのも一つの手ということもあると思う。また、?があるところで、無理に決めようとするとそうする行為それ自体が、交渉相手との関係で、マイナスの影響を交渉に及ぼす可能性もあるから、そこのバランスは考えないといけないな、と考える次第。なんでも決めておかないといけない、というわけではなく、達成すべきゴールが何で、そのためには今決めておいたほうがいいのか、どうか、という見極めなんだろう。その見極めには相手方の財務状況や履行能力への信頼性とかが絡むだろうから、簡単な話とは思えないけど。
ぼかした書き方しかしにくいのだけど(ついでに、前にも似たようなことを書いたかもしれないけど)、契約書にしてもそれ以外にしても、つい、決められることはなるべくはっきり決めて書いておくことを考えてしまう。そういうところで漏れがあれば、「この点はどうなってる?」と訊くべきと考えるし。
それ自体悪いことではないけれど、将来について予測可能なことには限度があることを考えると、決めないでおくのも一つの手ということもあると思う。また、?があるところで、無理に決めようとするとそうする行為それ自体が、交渉相手との関係で、マイナスの影響を交渉に及ぼす可能性もあるから、そこのバランスは考えないといけないな、と考える次第。なんでも決めておかないといけない、というわけではなく、達成すべきゴールが何で、そのためには今決めておいたほうがいいのか、どうか、という見極めなんだろう。その見極めには相手方の財務状況や履行能力への信頼性とかが絡むだろうから、簡単な話とは思えないけど。
dtk1970 at 21:00|Permalink│Comments(2)
June 05, 2013
グローバルとローカライズ
某約款のローカライズ、つまり、親会社がアメリカで使っている英語のものの日本法人用、日本語ver.を作っている過程で気づいた点を、いくつか、差しさわりのなさそうな範囲でメモしてみる。なお、英文契約特有の問題点については略している。
- 理解しやすい日本語への翻訳はスタートライン。それだけでは足りない。足りないと言っても、それ自体簡単なことではないかもしれない。翻訳を前提に書かれていないために、文章の構造がわかりにくいことも考えられる。
- 準拠法や、文中で言及されている法令については日本法の下での対応する法令(それが何なのか特定するのも結構大変)に置き換えるのが通常だが、それだけで足りるとは限らない。契約の相手方が日本法人でないとか、契約の相手方の作業が日本以外で行われる可能性がある場合は、当該他国の法令への言及が必要となる可能性もあるし、約款ということで、相手方が不特定であることが通常ということからすれば、もっと一般化した形にしておく(ただし、日本の対応法令は特掲しておくべきだろう。**法を含むがそれに限らない、いう感じか)必要があるだろう。
- そもそも対象となる業務などについての実務が本国との間で異なっているかどうかも検討が必要。これは法務だけの問題ではなく、その約款のユーザーが検討する必要がある。
- 保険付保に関する規定がある場合には、保険の実務だけではなく、付保水準(金額のレベル感とか)、付保範囲についても検討が必要だろう。
- 業界標準などへの言及がある場合は、その標準が日本でも使われているのか、確認が必要。使われていない場合は代替する別の標準への読み替えなどがいることになるかもしれない。
- 親会社の社内標準などへの言及がある場合は、その日本語版まで用意する必要があることもあるだろうから、その辺も注意が必要。翻訳がない場合は、別途手配が必要。
- 親会社が契約当事者になっているものを、子会社の日本法人が契約当事者になる形で書き換える場合、補償などの規定のところは、親会社自身が、被補償者の範囲から漏れないよう注意が必要。
dtk1970 at 23:39|Permalink│Comments(0)