ゲーム理論入門の入門 (岩波新書 新赤版 1775) / 鎌田 雄一郎 (著)引っ越します。

April 30, 2019

用意しておくとよい質問について

なんだかよくわからないタイトルですいません。昨夜,「#新人法務パーソンへ」のタグ付きでつぶやいたことのまとめ+αです。
#いただいたコメント(ありがとうございます)を踏まえて,一部加筆した。

契約書の審査依頼という業務は,まあ,企業の法務ではよくある業務なんだけど,文案だけ送りつけられて,見てください,みたいな依頼のされ方をすることが多い。もちろん,それだけで対応可能な場合もあるし,そのほうが楽なのかもしれないけど,法務担当者としては,そこで一旦立ち止まって,依頼元の担当者に依頼の背景事情などについて,質問をしてみても良いのではないかと思うのでありました。

そういうことをする理由として重要と感じているのは,そもそも依頼元が送ってきた契約の内容をどこまで理解しているのか,ということを確認するという意味あい。内容を理解していることを前提に,中身の問題点を指摘して,自社にとっての改善案というか修正案を示せば足りるのか,それとも,そもそも中身を読んでないから,中身を理解してもらうところから始める必要があるのか,いずれかによって契約書の審査の結果の折り返し方は異なってくるだろう。
また,そもそも契約のスキーム自体に問題(個人的な経験の範囲では,税務面で問題が生じることが多かった)があるような場合とかは,契約書の中身を審査する以前に,スキームの組み直しが必要になる場合もある。そういう話には内部調整も含め時間がかかるので,そこの洗い出しは,早めにしておくべきなので,可能であれば,初動のところでそこの可能性は把握したいところ。

では,何を聞くか。契約類型如何に拘らず,汎用性のあるものとして,僕が思いつくのは例えば次のようなもの。この他に契約類型ごごとに定型的に訊くべき内容もあると思う(例えば,NDAで言えば,自社のグループ会社などへの開示が想定されているか。想定されているなら,外部への開示禁止の例外措置としての対応を想定することになるだろう)。ざっくり分類しつつ,挙げてみる。

スキーム自体の理解に関する部分
  • 契約書に出てくる当事者の役割。当事者の名前は冒頭にあることが通常なので,そこだけはざっと見た上で,それぞれが何をするという立て付け(のはず)かの確認
  • モノ,情報,カネの流れとその順序。どうやったらこちらがもらうものをもらえるのか,というところをざっくりと。いわゆる商流とか,サプライチェーンも訊ける範囲で。
  • 自社の供給するモノ・サービス等の内容と性質。役割とも絡むけど。製品とかに弱い部分があったりするなら,そこは把握しておきたいところ。
  • 自社がこの契約を締結することにより,いかなるメリットを享受するのか。メリットはないけどなんとなく,みたいなものについては,そもそも契約締結をすべきではないかもしれない。
関係者との関係
  • 契約書に出てくる他の当事者との取引歴。付き合いの度合いで,取れるリスクの度合いも異なるのはある意味当然のところだし,時として,同じ相手と締結している他の契約書との整合性を考える必要もある。なので,ここの把握は必要。できれば,当該相手とのトラブルの有無も訊けると,リスクの発現の仕方の有り様を考えるうえで有用。
  • 他の当事者との間の力関係。いろいろ修正意見を述べても,力関係で押し切られるなら,むしろ,覚悟すべきリスクの指摘と自社で取りうる回避策・軽減策を考える方に注力すべきかもしれない。その見極めのための材料として重要となることもある。
  • 契約書の修正余地については,力関係の反映ではあるけど,特にリクエストがあるかも訊くほうがよい。この辺は後で出てくる交渉の状況とも関係する。今更直せないというようなタイミングで依頼が来た場合は,苦言を呈したほうが良い場合もあるだろう。
時間軸
  • 直近の次のアクション。依頼元にいつまでに返事をかえすかの締切について,正味の見極めのために必要。場合によっては,次のアクションの方を遅らせるという手を講じないといけないこともあるかもしれないから把握しておきたいところ。
  • この契約書の締結及び履行完了前後に何かあるか。短期的な話というよりも長期的なお話。例えば,一旦NDAを取り交わして,情報をもらってフィージビリティ・スタディをして,共同開発の可能性を探って,行けそうなら共同開発を,というような段階的なお話の場合は,そのステップも踏まえて最初のNDAから見ておくほうが良いわけで,単体の契約書だけを考えるだけでは不十分なお話というのも往々にしてある。そういう全体像を把握することは重要。
  • 検討対象の契約書の締結交渉のステータスも大事。修正余地とかにも絡むけど。
依頼者本人との関係
  • 本人が特に気になるところ,見てほしいと思っているところ。現場を直接知っている人間の目から見て,懸念している点があれば,聞いておくのも良いと思う。

まあ,こんなところか。この程度のことは,法務担当者としては,訊く癖を付けておくとよいのではないと思う。
ここ一年の間にインハウスの面接を受ける機会があり,ある企業で模擬契約書レビューの面接があったのだけど,その場で,こういうことを訊くことができない候補者が多かった(それをしたこちらは高評価を得た)という話を面接側から聞いた。普段から意識していないと,そういう場でもなかなかやりづらいと思うのでありました。



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dtk1970 at 14:55│Comments(0)契約法務 

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