That's NOT what I wantBusiness Law Journal 5月号

March 21, 2019

キャリアアップのための 知財実務のセオリー ―技術を権利化する戦略と実行― Practice of IP for career Dev. (ビジネスセオリー) / 岩永 利彦 (著)



長らく「積読」だったのだが,某用件で一読したので感想をメモ。 著者は,企業でエンジニアから知財部門に移り,弁理士を経て,弁護士になられた方。blogでの辛辣さも個人的には印象的。

僕自身は,企業法務の担当者としては,知財にそれなりの陣容が整っているところにしか席を置いていないので,知財が具体的にどういう業務をしているのか,正直なところ,よくわかっていなかった。本書は,知財部員のOJTのテキストとして優れているのみならず,知財は何をしているのか,知財以外の人にも解説する本としても優れていると思うので,法務部門の方も読んでいてしかるべき名著といえると思う。

何がすぐれているかというと,まず,例の使い方が挙げられる。つまり,同じ一つの発明(発明の内容も技術的知見に欠ける人間にも分かりやすい)を例にして,特許の権利化及び権利化後の活用の,それぞれの局面において,どういう点が問題となり,それについて何をすべきかがわかりやすく解説されている。
次に,要所要所ではいるまとめや概念の説明図が適切で,内容が理解しやすくなっている点も個人的には特筆に値すると思う。
もう一つ法務の視点から印象的なのは,エンジニアから知財に来る人に対する心構えとか契約書の審査などの業務に関するスキルについてのアドバイス。法的文書の読み方・書き方の辺りは,理系のバックグラウンドの人にはこういうふうに見えるのか,という意味で新鮮だった。特に,文書の書き方を身につけるための最高裁判例の写経というのは,司法試験の勉強で優秀答案の写経はしたことがあったものの,こういう文脈で写経というアイデアは思い至らなかったので,なるほど,と感心した次第。

他方,気になった点もいくつか。 そもそも,内容の大半は特許法の話で,意匠とか商標の話はあまりない。著作権の話はないに等しいので,「知財実務のセオリー」というよりも「特許実務のセオリー」という題名して,特許に絞ったほうが良かったのではないかという気がした。知財実務と言っても,特許メインでない知財実務もあるのではないかと思うのだが,どうなんだろう(正直わからない)。
また,知財実務の入り口を示すという感じではあるのだけど,この本の先を示すというのが割にあっさり目で,特に一人知財の方とかを想定するともう少し読書案内については詳しめでも良かったのではないかという気がするところ。
あと,「おわりに」で知財の名著は改訂版がでないと書かれているが,この本についても改訂版を期待したいところ。多くの部分は普遍的なところなので,それほど改訂すべきところは無いのかもしれないけど,特許法のH26改正後の実務や判例とかを反映する改訂は会ってしかるべきだろうから。レクシスで出していた本は第一法規が引き継いで出しているケースが多いように思うのだけど,この本はどうなっているのだろう?


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dtk1970 at 23:59│Comments(0)書籍 | 知財

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