フォローアップ[ポイント図解]生産管理の基本が面白いほどわかる本 / 田島悟 (著)

February 28, 2019

ご利益のほどは

時事ネタからは距離を置くことを心がけているのだが,思うところあって,若干のメモを。

某皇族の関係で話題になっていた某氏がUSでのLLM*1の後,NYBarを受験するという報道があり,日本での弁護士資格がないのに,NYの資格を取ることの意味について疑問を呈する声を見た。僕も,その後で日本の資格を取ったものの,USでのLLM+NYBarだけの資格で仕事をしていた期間がそれなりにあるので,過去のそのような経験から若干のコメントを。当然のことながら,以下は当方の経験に基づく感想(当然のことながら,僕自身に有利な形での,ある種のポジショントークというか色眼鏡での評価が含まれる)なので,そういう意見もあるという程度に過ぎない。

また,以下では,USでのLLMそれ自体のご利益については,省略する。英米法の知識だの何だのの知識の習得のご利益はそれなりにあるとは考えているが,その話は本題とは直接関係ないと思うので。



まずはじめに,USのLLM(LLMに入る前提として日本でのLLB等があるはず*2)とNYBarだけだと,確かにUSの事務所にフルタイムの立場で入るのは,ほぼ不可能と言って良いのだろう。かつて例外を見たことがあるけど,僕が実際に見た方は,そもそも純ドメじゃなく,帰国子女で英語がネイティブレベルで,という方だったので,参考にしにくそうではある*3

そうなると,日本で開業は直ちには無理*4ということからすれば,日本の企業に入るということを考えることになる。企業内で社員として法務業務に就く分には非弁の問題は生じないと思われる。ここでいう日本の企業は日系企業に限らず,日本にある外資系企業の日本法人も含まれる。僕自身,日本の弁護士資格取得前に,法務職で4社で就業したが,1社目からの派遣でUSでLLMを修了した後,2社目(日系)でNYBarに合格,NYの弁護士登録をし,その後の3社目は日系企業で,4社目は米系企業だった。4社目の米系企業の日本法人に入るに際し,最終面接で出てきたアジア担当のAssociate General Counselに,日本の有資格者でないけどいいのか,と訊いたらそれでも構わないということだった。

最近でも,外資系企業の法務での募集について,Job Discriptionを見ても,日本法人といっても,日本の資格者であることを必須とせず,資格があれば法域を問わないという募集もそれなりに見る。

なので,一定のご利益をここで認めることができると思われる。

それでは,ここで認められるご利益の意味はなにか。資格を有していることそれ自体の価値ということになるが,それはどこにあるのか。

1つ目は,おそらく,外人(特に外人の弁護士)と英語で法律の話をすることができるだけの能力があるものと制度的に,かつ,外国人の目から見ても分かりやすい形で担保されているということ,なのだろう。これは日本の弁護士資格では,必ずしも担保されない(日本語で試験をされている以上当たり前だが)。
外資系企業の法務とかでは,日本で起きていることについて,日本法に馴染みのない本国のインハウスに説明することが,その職能として期待されている。説明すべき内容自体は外から調達することができるとしても,彼らにわかるように,理解しやすい形で説明するのは,工夫を要する場合もある。その意味では,説明相手にわかるように説明する能力があるものと,推定が可能となる担保としては,NYBarを有していることは意味があると考えることは可能だろう。
反面,外部との訴訟などの,日本での資格が無いとできないような業務は,コンフリクトや弁護士倫理上の問題を懸念して,外の事務所に出すのであれば,日本での資格の重要度は相対的に下がるともいえる。

では,そういう期待のない日本企業においてはどうか。同じ理由から,外部の外人弁護士に同様の期待をさせることで,軽んじられないというメリットはあるものと考える。その当否はさておくにして,法務は有資格者がするもの,資格のない人間は補助的な業務しかしないという頭で凝り固まっている米人とかの相手をする上では,資格があることそれ自体が意味を持つことがある。話をする入り口段階のことなので,ここのご利益は無視できないように思う。

第2に,attorney-client privilegeとの関係も指摘可能だろう。USでの訴訟における秘匿特権については,インハウスでも主張可能というのは連邦最高裁の判例上定着していると考える*5が,インハウスがUS以外の資格者の場合はどうなのか,というと,認めた下級審での裁判例はあるようだが,連邦最高裁での判断はないみたいなので。USでの訴訟を考えると,USの資格者であることは強みになりうる。

最後に,維持費の面では,むしろ日本の方が破格に高いから,そもそも比較にならない。NYなら,弁護士会登録も任意で,ホントの意味での最低限の維持費はcourtへの登録費用であり,2年で350ドルとかのはずだから。
しかも,日本の弁護士だと会務とかの負担も生じる。その分業務に従事する時間が減るのは事実なので,ここをデメリットと捉える考え方もあり得るところ(もちろんメリットもあるはずだけど,内容次第では勤務する会社の業務との関連性が高くなく,メリットとして認識しにくいという結果もあり得る)。

以上のようなことを考えると,日本の弁護士資格なしにできないことを必須として求めなければ,USLLM+NYBarのみでも,少なくとも日本の企業内では,相応のご利益がある*6(費用対効果を考えれば特に),という評価も可能と考える*7。 

*1 USでのLLMについても,LLM in American lawとその他のLLM(例えば,LLM in Tax, IP, Trade Regulationなど),後者はJDを出た人間も行くのに対して,前者はJDと同じ授業だったりする(契約法のような場合は,学校によって別にしている場合もあると理解しているが…。また,授業が同じでも採点は別というケースも有る)。両者には質的な差異を見出すことも可能だろう。以下では,自分が通ったということもあり前者を前提に考える。なお,後者の場合は,科目のとり方を間違えると,NYBarの受験資格が得られない可能性があることには,注意が必要かもしれない。
*2 LLM in American lawは,他所で法律学を学んだ学生が対象という立て付けなので,日本から行く場合は,LLBまたはJDを持っているか,これらに代えて修習を終えていることが前提になるはず。今回の某氏の場合,ここについても問題があり,学部は法学部でない(卒業した学校に法学部がなかったはず)ものの,某所の院(法科大学院ではない)での修了をもってこれに代えたのかもしれない。まあ,LLMの出願については,ある程度出願を受ける学校側に裁量があるようなので(この点については,こちら以下のつぶやきが参考になる。また,同じ方のNYBarの出願資格についてのこちら以下のつぶやきも同様に参考になる),出願者がうまくアピールすることでこの辺りをクリアしたとしても,個人的には驚かない。法律家としての交渉能力の発露という見方もあり得えなくはないと思うので。
*3 学歴以外の職歴等で不足分をリカバリーしていた可能性もあるが,確認していないので不明。
*4 一旦企業に入ってから,原資格国に赴任して,そこでの業務経験によって,実務経験をクリアして外弁登録というルートもあるのかもしれないが,個人的に実例に接したことはない。
*5 関戸先生たちの書籍(同著p156以下)などを参照のこと
*6 なお,以前,某大手事務所からUSのLLMに留学されたいた先生が,NYBarを取ることの意義について疑義を呈する呟きをされていたが,それなりの事務所からUSのLLMに行っておきながら,NYBar(またはCalBar)にも合格していないと,このセンセイは何をしていたのか,という目で依頼者から見られかねない(特に依頼者サイドが日本の有資格者またはUSLLM経験者だと)という意味でリスクがあると思う(少なくとも僕はそういう目で見ていた)ことは改めて付言しておく。
*7 本エントリは,@keibunibu先輩の某所での会話がきっかけとなっている。ご示唆をいただいた先輩には感謝を申し上げる。勿論文責は当方にある。


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