神宮外苑の銀杏(2018)武器としての情報公開: 権力の「手の内」を見抜く (ちくま新書) /日下部 聡 (著)

November 25, 2018

白石先生のご講演

昨日の白石先生の講演についてメモ。長くなってすいません。
独禁法に触れるのは,司法試験本番以来,という感じで(汗),久しぶりに,最先端の議論に接するのは,修習により遠ざかった感のある部分に久しぶりに接した,という感じ。

こちらにレジュメがある。配布されたものにはQRコードがついていて,上記のものにアクセスできる(記載のリンクは見ていなくても講演を聞く上では支障はないとのことだった)
が,以下では,レジュメに従って,こちらのメモ・記憶に基づき,肉付けを試みるもの。
【】はこちらの呟きというか感想。







■本題に入る前に
  • 法学部のイメージと言うと条文と判例を覚えて,みたいなところがあるが,法律で隙間なく判例がある憲法民法刑法のほうがむしろ例外的で,隙間のある法律のほうが多い。
    また,すでにある法律の解釈に限らず,法律のない分野について,どのように立法をしていくのか,という分野が最近注目が集まっている。
    【この辺りは,今までも業界団体とかを通じて,企業側の事情は情報が上がっていたところのようだけど,それが業界団体とかのない分野にして,かつ,ネットでの情報発信を躊躇しない分野の方々が関わるようになったので,業界外の方々にも見えるようになっただけではないかという気がする。なので,この辺りを声高に,まったく新しいことであるかのように言挙げする傾向には違和感が残る。この辺りは,僕自身は直接関与していないところなのでうかつなことは言えず,直接関与された経験のある方々にもっと語ってほしいところ(と,特定方面を見る)】
  • そこでは,
    立案→提案
    私益・公益の別(前者を後者に昇華させる)
    透明性
    言語化
    というあたりが重要
    それと国際的なかかわり合いも重要
  • 独禁法・競争法について
    独禁法:程よいポジショニング
    条文と判例がある程度ある
    未知のところもある
    国際的な性格も有している
  • 名称いろいろあるが,内容は変わらない
    独禁法:日本の法典に着目した呼び名
    競争法:1990年代以降,国際的共通性,比較の上で使われるように
    (1890年からUSで発展,1980年代からEU法のプレゼンス強くなる。今は2強というところ)
    経済法:独禁法より広い。大学の科目名または司法試験の科目名
  • 独禁法の基本は4つ(図示があったが略)
    カルテル(横のつながり)
    競争排除
    搾取
    企業結合
  • なお,独禁法は独占を禁止していない。それにも関わらず独禁法というのはネーミングが良くない。
■ここまでの小括(?)
  • 基本科目の勉強は大事
  • 広大な外側とのつながりを意識することも大事

1 アルゴリズム・AIと競争法
(具体例は後ほど)
総論としては2つの観点で問題に

①「デジタルカルテル」
カルテルが2人の自然人により実行されるのを,共通化したアルゴリズムが実行してしまう(そのつもりがなくとも)こと
例:小売のプラットフォームで同じアルゴリズムで値段決めたケース
(参照 2017年6月号のジュリストの記事)
②顧客別条件提示の細密化
こちらは単独行為の問題
今までは顧客を単一に見て,料金提示していたのを個別設定すること。今までもあったが,今まで以上に簡単かつ細密にできるのが問題
これにより「効率的」な搾取,「効率的」な他社排除が生じる可能性
例:米国の航空会社
とりあえず往復でチケットを買わせるとしたうえで,土日をまたぐ場合は,私用で購入だろうから安価で,そうでなければビジネス用途で,自分の懐が痛むわけではないから,高くても買うだろうと,高い値段設定をする
OECDでもpersonalized pricingとしてround tableで議論されている

こうした行為が正当化可能か?ー相手側の議論を考える。
  • 効率性は技術革新の賜物
  • 便益を受ける代償
  • 技術的にやむを得ない
  • 民間企業の自由
・・・色々考え得るところ

*技術に対する理解も重要:仕組みをblackboxにしない。
各分野の専門家の専門分野が有機的につながるのが望ましい。全部1人でカバー出来ない以上,そうなる。他分野についても土地勘があるのが望ましく,そのうえで,問題意識を共有して,情報の提供を受けられるというのが望ましい。

参考文献 市川芳治「AIと経済秩序」

2 Google Search
欧州委員会の命令(2017)
委員会のkey personはMargrethe Vestager
googleは一般的検索と特定分野(レストランとか地図とか)の検索とがあるが,一般検索上で,カメラの機種名を入れると写真付きで価格比較が検索の上位に出るようにして,価格比較の特定分野検索で,他社排除をしたとして欧州委員会が命令をしたもの。公正な競争になるのか疑いを持たれたもの。
現在係争中なので,google側の反論があり得るところ。例えば,検索の仕組み間での競争の中で魅力を増すために行った措置に過ぎない,とか,表現の自由の一貫であるとか,が考えられる,

3 Google Android
2018年欧州委委員会の命令で抱き合わせが問題になったもの。
ここで,抱き合わせというと,一般的なイメージからは想定しにくいものも含まれることに注意
例:ボストンのフェンウエイに行かれたときのこと
スタジアムの外でペプシを売っているので,ペプシと水を買って入ろうとしたら,水は良いがペプシはダメと言われる
→スタジアムの中にはコカコーラの広告
→ペプシの排除(ある意味,チケットとコーラの抱合せ)?
とはいえ,おそらく違法ではない:理由は考えられたし
【私見:排除されているのがスタジアムの中で,その外では普通に競争可能なこと,及び,スタジアムの中は私有地なので,その中で排除をするのも,所有者の権利のうち,ということか
(MA州では屋外では飲酒禁止のところ,スタジアムの中は可能だしね)】 
Androidの件では,他社排除とされた。
google app storeとgoogle search app/browserが抱き合わせ

4 AppleとAmazonのE-book
AmazonがE-bookについて価格決定権を握っていたところ,USでAppleが価格決定権は著者に与えるが,MFN条項(最恵国待遇)を課す形での契約をE-bookの著者とした
→amazonよりも不利に扱われないことになる
欧州ではAmazonがMFN条項を使って契約した
MFN条項を使って,結果的にカルテル類似の結果が生じる
欧州では確約決定:違反の疑いがあるとするに留める
日本の公取でも2017年にAmazonが報告
参考 滝沢論文@2017年2月法学教室
成毛「Amazon」:Amazonが何をしているのかの紹介
Amazonのしていることには,論点が色々あるが,今日はここまで

5 Facebook 個人情報保護と競争法
Bundeskartellamt(ドイツの競争当局)がFb調査中とのプレスリリースを出す。
第三者が収集したデータをFbのデータとつなぎ合わせているのが,ドイツの競争法に違反しないかというもの
ばらばらのデータをつなぎ合わせることで企業にとって価値のあるデータを生む可能性がある。
WhatsAppとFbの結合について,2014年欧州委員会の審査があった。結合審査は今後競争法の観点で弊害が生じないか審査するもの。審査時には「アカウントの情報を相互に自動的に結びつけるのは困難」としていたが,2016年にはそれが可能であるとの前提で発表をしていたことが,審査時に嘘をついていたのではないかという話になり課徴金を課すに至った。
個人情報保護法と競争法
競争法が言及される理由
  • 保護水準に疑義
  • 保護水準についてのカルテル?
  • 企業結合により保護水準低下
保護に競争法を使う理由
当局の個人情報保護に関する経験不足?

6 法的対応の道具
  • 命令,課徴金等
  • 確約制度:日本でも今年の12/30から導入(TPPとリンクしているので,そういう日付からの導入)疑いがある,で留める代わりに,企業側から是正計画を出させて,それを当局が認定したら課徴金を課さないとするもの。
  • 事前規制
  • 自主規制/共同規制

■とりあえずのまとめ
  • インターネットと個人主義
    それほど強靭なものではない個人
  • 反転可能性【この辺りメモが不十分…】 
    論理性が重要
    同じものを同じものと扱う公平性が重要
  • 自分の言い分が相手側に立った時に受け入れ可能なものか,を考えるのが重要

■質疑
★GAFAの問題は似たようなものがあったか?
→中にはまったく新しいものではないものもある
(電力会社が電気事業法で規制を受けている,NTTへの通信規制…)
⇔同時に新しいものが,今までとは異なる規模・スピードで進んでいるので,今までとは異なる対応を要する
★独禁法は最近のもののようだが,民法のようにローマ法などと接点はないのか?
→問題状況はローマの頃にもあったはずだが,自覚的に研究がされていないだけと考える。
ここ2,30年の競争法の在り方についても,プラットフォームの問題を契機にUSでも見直しが議論されるようになった。
★googleが検索エンジンとしてここまでの地位を築けたのは競争法的に何か理由があるのか
→そこはわからないが,ユーザー視点で見ると,他よりも新しい一歩を大胆に踏み出すのが差を生じさせたのではないか。

【学生のスタッフさんは,おじさんの目から見ると,しっかり礼儀正しく頑張っているのが好ましかった
また,白石先生は,電子機器の不調があったものの,駒場生,一般の方向けに,最先端の議論をわかりやすくご紹介いただき,個人的には,参加できて非常に良かったのでした。ありがとうございました。】


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