7年刑事弁護の基礎知識/岡 慎一 (著),‎ 神山 啓史 (著)

March 17, 2018

現役法務と顧問弁護士が書いた 契約実務ハンドブック / 長瀨 佑志 (著),‎ 長瀨 威志 (著)

ご縁があって出版社の某氏からいただいたもののうちの一冊の感想をば。修習生モードに頭がなっているので,たまには企業法務モードに切り替えて,読んでみて気づいたことを書いてみる(といいつつ,書いてからupするまでに時間が空いてしまった…)。

債権法改正も視野に入れつつ,今時の契約法務周りの実務を幅広に鳥瞰する本という感じの本。契約準備,契約交渉,ドラフティング,トラブル発生,解決方法(解決方法で執行・保全まで触れているのは有用という気がした),という時間軸,及び,売買契約,金銭消費貸借契約,不動産売買・賃貸借契約,ソフトウエア開発委託契約(業務委託契約),労働契約という類型別,にそって,契約書の雛形及び周辺的な事柄について実務的な点を整理,解説している。目次部分にマトリクスでこれらの項目が整理されているので,一覧性があって,検索もし易い。

また,それぞれのセクションごとに法務担当者と外部弁護士との役割の差異についての記載があったり,企業側が弁護士事務所とどのように関わっていくかという点についての記載もあり,後者については相談メモや意見書の例もあるところは,特徴的といえるかもしれない。

そんなこんなを考えると,契約法務(機関法務あたりと対地する感じか)の担当者の最初の一冊としては適当なのではないかと感じるところ。特にリスクについて,取ってはいけないリスクと,取った上でコントロールするリスクとを明確に区別して論じているのは,むやみにリスク回避的になるのを戒める意味でもよいと思われる。



とはいうものの,気になるところもある。ざっと挙げてみると次のような感じか。

  • カバーには,ビジネスパーソンのための「契約の教科書」とあるが,法律の知識なしに読めるとは思えないので,企業の営業担当者とかに読ませるには,内容的に無理があるといえる。法務担当者向けと見るべきだろう。 
  • カバーには,企業法務のリアルを知り尽くした,ともあるけれど,その割には,企業内部での他の管理部門との関わり合いみたいなことについてのあまり記載がないのはやや疑問。紛争発生後の対応のところでは言及があったけど,その手前の段階でもやるべきことは多い。僕の経験した範囲では,特に,税務周りは,契約準備の段階から担当部門と協議する必要が高いし,その辺の言及がないところは,先の惹句についても割り引いて考えがちになる
    (著者の経歴として記載されている内容をみても,インハウスについての記載がないし‥でも,事務所のサイトには記載があるんだよな…証券会社出向経験だけで企業法務が分かったといえるのかどうかは疑義が(謎))。 
  • 弁護士事務所選任に際してコンフリクトの問題について言及がないのも,疑問に思った。 
  • 契約書の雛形について,甲とか乙で当事者を表記するのは辞めた方がいいと思う。甲乙間違うことがあるから。間違いをチェックしろと脚注に入れるくらいなら,そもそも使わない方がいいと思う。内容に応じて役割に即した名前を使うのがよくないか。 
  • 類型別の整理についても,一般的な役務提供契約も取り上げた方が良くないかと感じた。そもそも,ソフトウエア開発委託契約を業務委託と理解すること自体の当否も争いの余地があるように思うし,仮に業務委託と捉えたとしても,業務委託契約の典型例とは言い難く,他方で,一般的な業務委託契約についても,問題は生じやすい(特に税務面で)と感じるからなのだが。 
  • 全体像の鳥瞰という色彩が強いので,個別の論点などについての参考文献の案内がほしかったところ。これ一冊で何でも対応できるというものではないだけに,そこは重要と感じたところ。
  • 紛争対応時に配達証明+内容証明でなく,普通郵便を使う選択肢のデメリットとしては,いつ届いたかわからない,という点だけでなく,そもそも届いたかどうかの証明が困難という点は指摘してあるべき(p311)
  • 執行のところでは,差押とかと並んで転付命令についても言及すべきではないか
  • 労働契約の雛形の脚注で「法令上明示が必要」と複数回出て来るが,具体的な法令の摘示があって然るべきではないか。