ライブ講義弁護士実務の最前線Vol.1 /東京弁護士会法友全期会 (著)体調についてのメモ(2018/3/1)

February 18, 2018

新・国際売買契約ハンドブック / 住友商事株式会社法務部 (編集),‎ 三井物産株式会社法務部 (編集),‎ 三菱商事株式会社法務部(編集)

約四半世紀の時を超え,名著と評判の高かった書籍の新版が出た。一通り目を通してみたので感想などをメモしてみる。財閥系総合商社3社の法務部の方々が集って作ったものの新版であり,創業商社というだけでひれ伏したりしないものの,新刊予告を発見した時点で,前著は読んだことがなかったものの,期待はしていたので,書店で見つけてその時点で捕獲,もとい,確保した。結論からいえば,国境を越えて物の売買をする契約を取り扱うのであれば,座右において,適宜紐解くに値する本ではあるかと思う。




全体は3部構成。

第1部が全体像の把握というところで,基礎的な事項のおさらい,という感じではあるけれど,売買契約の流れの鳥瞰から,取引の流れに沿った形で,契約の締結から,運送,保険の付保まで,各項目ごとに解説がなされている。カバーする法域としては,日本(債権法改正も視野に入れつつ)と米英が主で,適宜中国やCISGについての言及もある。これ以外の法域を扱うことはあまり想定しにくいので妥当なところなのだろう。
もっとも,個々の叙述は相当簡潔。NDAのポイントとか1頁弱にまとまっているし(もっとも,記載から何をすべきか読み取れるのであれば,これで大所は抑えられると思うけど)。信用状に関する基礎的な解説は省略されている。なので,この分野について学ぶための一冊目としてこの本を読むと,結構大変なのではないかと思う。適宜他の本で補う方がよいのかもしれない。
他方で,Trade TermsについてIncoterms以外の定義について言及があったり,Corporate Secretaryの役割についての解説があったりして,経験のある方々にとっても有用な形でまとめられているように思う。
*例えば,前にこちらでもご紹介した,「国際取引のリスク管理」ハンドブック(改訂版が出ている)あたりがよいのかもしれない。


第2部は,第1部を踏まえて,契約書の各条項ごとに,サンプル条項,その解説,及び,サンプル条項とは異なる規定ぶりの例,という形で記載されている。
物の売買の契約を前提にしていると思われるので,物の受け渡しに絡む条項や品質保証・瑕疵担保の条項については,サンプルからしてそれなりに詳細に規定しているし,トラブルが起きた時に関係する条項についてのところも同様にそれなりに詳細に規定されている。また,異なる規定ぶりの例についても,状況設定をしたうえで記載例があるので,理解を助けてくれる。


第3部は,様々な書式例。Letter of intentに始まり,契約書(長期売買,スポット売買等),契約に基づく各種通知の例が含まれており,織り込みで裏面約款の例も含まれている。契約書の例も有用ながら,契約に基づく各種通知の文例は,契約書の書式例に比して,文例が紹介されることが少ないと思うので,有用度が高いのかもしれない。
惜しむらくは,各文例がバラバラで,契約書との関係が必ずしもわかり易くないので,通知類が各書式例にも紐付けられているとさらに有用度が上がるかもしれない。
また,契約書例については,長期売買物の契約については,対象物の特殊性(及び,それに起因する取引慣行)に基づく条項も見受けられるものの,その辺についての解説がないので,他の物を扱う契約を考える上で,どのように斟酌すれば良いのかは,必ずしも判然としない。脚注レベルででもよいので,多少は補足説明があっても良かったように思う。


あと,細かいところで気になった点,感想をいくつか箇条書きでメモ。
  • 契約の締結回りのところでは,ネット経由での契約締結(Terms of salesにクリックで合意する場合や萬鯖氏等の雲署名も含め)について,特段の言及はなかったが,要するに,特に新しいものは含まれていないという理解なのだろうか。正直良くわからなかった。合意の成立時期について,紙ベースのものと異なることがあるはずなので,言及があってもよいのではないかと感じだのだが。
  • 文例については,第3部のもの以外も,どちら側にたって起草されたものか,必ずしも明確ではないこともあり,こういう書き方がある,という以上の使い方をする場合は,他のあり得る書き方との比較をしたうえで,どういう面でどちらの側に有利かということを考えながら,参考にしないと危険かもしれない。
  • best effortという記載も文例の中で出て来るが,以前エントリに書いたように,日本でネット界隈で片仮名表記で使う場合(この辺は,本書の元の版が出た頃にはなかった現象だが)とは,ハードルの高さが異なるので,注意喚起があってもよかったのかもしれない。
  • 不可抗力条項についての記載では,不可抗力事象の取り上げ方もさることながら,不可抗力事象が生じたあとの措置の重要性を改めて感じた次第。相手方への通知義務や不可抗力事象の影響を最小限にする義務がある場合には,不可抗力事象に追われるだけではなく,その都度,契約の文言を踏まえて適宜の対応を取ることが必要なわけで,そうなると,契約書の電子化とかをしていて,ネットワークが落ちている,または,そもそも電力が供給されていないような場合(3.11後のこと,及び,同様の地震の発生可能性を考えると想定しないわけには行くまい)には,契約書を確認することすらできず,それらの義務を履践すらできない危険があるよな,と感じた次第。アナクロと言われても,紙ベースでの保管の併用が無難な対応なのだろう。
  • 契約書の締結に焦点をあてているので,締結後の紛争処理,トラブル処理(保険の請求も含め)についての言及はあまりない。文例で和解の申込み(settlement offer)とかもあるので,その辺についてまで視野に入っていると良かったのではないかとも思う。もっとも,その辺りまで書くとなると,分量がさらに増えるので,書籍としての使い勝手は悪くなるだろうから,含んでイなかったとしてもやむを得ないところなのだろう。
    (更にいえば,そのあたりこそが商社のノウハウでそこまでは開示したくないということもあるのかもしれない)

色々書いたけれども,総じて有用度の高い本なので,国境を越えた物の売買について取り扱うのであれば,手元において,適宜紐解くべき一冊だといえる。



dtk1970 at 10:42│Comments(0)契約法務 | 書籍

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