逃げてないか,惑わされてないか新しい債権法を読みとく山野目 章夫

December 02, 2017

疑問点のメモー譲渡禁止特約について

一応債権法改正についても勉強していないわけではない,というアリバイ作りではないけど,あれこれ考えた中での疑問点をメモしてみる。
(以下については,その一部につき,某所で発言したところ,諸先輩からいくつかコメントをいただき,その内容も可能な範囲で反映しております。該当の諸先輩の皆様ありがとうございました)






某先輩にたしなめられたので,まずは,ということで,債権法改正の法務省の資料を一読。確かにこれはよくまとまっていると思う。図示の適切さが個人的にはツボ。

この資料につき,某所で某先生にご指摘頂いたのだが,この中での債権譲渡禁止特約のところの解釈論は,なんか違うというか,大村先生がNBLかどこかで言っていたのと違う話になっていると思われる。確か,譲渡禁止特約違反の譲渡は,有効としても,別途債務不履行になるという話をされていたはずなのだけど…

債権の流動化を促したい,金融機関寄り(?)の発想から,譲渡禁止特約違反でも債務不履行にもならないという解釈論を展開しようとしているのだろうけど,そういう議論の正当化事由として,譲渡対象となる債権の債務者の利益は,今回の規律で十分保護されている,としている点にやや疑問。メーカーの法務で,サプライヤーとの関係を考えると,そこでの債務者(自社)の利益は支払先固定だけではないと思うから。

これは,ある意味極めて単純な話で,納入を受ける側と,納入する側との間で,金を払ってもらえるからこそ言うことをきく,という関係が保てないのが問題。つまり,金はどのみちどこかからもらえるとなったら,納入業者は,真面目にモノを作ってくれるのか,発注者側の言うことを聞いてくれるのか,という問題意識で,金を払うということ,つまり債務者であることが債権者,つまり下請けというか納入業者側の「忠誠心」(この言い方がいいかどうかは微妙だけど)をコントロールする手段という側面もあると思う。しかし,その利益は,この解釈論上は十分保障されていないという気がする。その辺の利益は保障されない以上,譲渡禁止特約違反の譲渡はやはり債務不履行になる,という解釈論をする余地があるということになるのだろうか。

さらに,仮に,こうした利益を保証する必要はないとして,上記のような解釈論ができないとしても,その先には,別の問題があるように思われる。この種の継続的取引においては,譲渡禁止特約は取引基本契約上存在し,個々の受発注はそれに基づき別途交わされる個別契約によってなされるが,特約違反の譲渡をした相手に,次の新規発注をしないということになれば,バックログがなくなったら,事実上関係が切れる(契約上は,取引基本契約に基づく契約関係は生きているが,それに基づく個別契約で,物が発注されているものが存在しない状態)ことになるだろう。取引基本契約が解除されないのであれば,そこから先の個別の受発注については,どういう解釈論を講じようとも強制はできないだろう。単に次の仕事を出さないだけだから,優越的地位の濫用も無理だろうし。そう考えると,債権譲渡を認めても,この種の契約類型においては,どこまでの実効性があるのか疑義があるかもしれない。特に将来債権譲渡担保とかについては,取引関係が発展していくことが,担保としての価値を高めることになるのだが,担保設定した行為が,新規発注の抑制に向かえば,逆効果という可能性もあるかも知れない。

もっとも,次の新規発注をしない,という選択が常に取れるかというと,更に別の考慮もいるように思う。昨今ではBCPという観点から,複数購買という話があり,特定の部材,部品などにつき,供給可能なサプライヤーを複数確保していることも多いから,複数あるサプライヤーのうちの一つに上記で問題にしているような事態が生じたとすれば,買い手側は当該サプライヤーへの発注を減らし,他所のサプライヤーへという動きをすることも考えられる。しかし,他所のサプライヤー側が,当該受注を受けられる体制にない可能性もある。モノを作る場合には,作るための材料供給,設備の具備,人員の確保等が必要になるから,その辺が追いつかないと,引き受けられないと言う可能性もある。また,自社がサプライチェーンの途中にいる場合,自社の顧客との間での取引基本契約上,サプライヤーの変更について,当該顧客の承認等の取得を義務付けられていること(4M変更)もあり,そうしたときも,変更は容易ではないかもしれない。

さらに,そもそもサプライヤー側が特許を押さえているような場合とかは,そもそも代替先が存在しないという場合も想定される。こうした場合には,納入業者側の方が力関係上強い,という可能性もあるのかもしれない。そうなると,「強い債務者」というような,この解釈論の前提にあるような図式事態が成り立たないということになるような気がする。
(「強い債務者」のようなある意味パターナリスティックな解釈論は,当事者対等の原則にも反するので,明文なしにそのような解釈を持ち込んで良いのか,という点も疑問に思うところ)

そんなこんなをあれこれ考えると,笛吹けど踊れず,というか,上記の解釈論のご利益は,実のところは,上記の文脈では相当程度,限定的なのではないか,と思うのでありました。
#いただいたコメントを読んで再考の上,一部訂正しました。


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dtk1970 at 00:00│Comments(2)債権法改正 

この記事へのコメント

1. Posted by ななぴ   December 02, 2017 22:01
継続取引と信義則の関係はどうなんですかね(法務省資料でも書いてますが)
基本契約と個別契約という発想に固執するのは企業法務に毒されすぎな印象を受けます
2. Posted by dtk   December 02, 2017 23:22
コメントありがとうございます。
信義則との関係は,正直,よくわからないという印象です。

企業法務に毒されすぎというのは,そうかもしれませんが,企業法務,特にメーカーとして買い手に立つ場合の話をこのエントリでは考えていますし,その際には基本契約に基づき個別契約が締結されるパターンが多いので,それを前提に考えています。その他のパターンでの取引があることは理解していますが,このエントリではそこは考えていません。ご理解をいただければ幸甚です。

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