M&Aの契約実務 / 藤原 総一郎 (著), 大久保 涼 (著), 宿利 有紀子 (著), 笠原 康弘 (著), 大久保 圭 (著)デジタル時代の著作権 /野口 祐子 (著)

October 31, 2010

価値はどこに?

現代の臥竜窟さんネタを振られた…ような気がするので考えてみる。

ネタはAbitusの、オンラインでLLM+Bar Examを受けるコースの価値に関してのもの。

正直、今の状態では、米国弁護士資格を取得することによる、
日常業務への付加価値という意味でのメリットが具体的に分かっていないので、
分からないものにはそうそう大金を払うことはできないという結論になるのである。


他人(派遣元企業)のカネで留学に行っておきながら1年で辞めた点とか、その他の点でも、僕がこの手の質問にお答えするべき立場にいるのかどうか、疑問の余地はあちこちにあるのだけど、まあ、そこらは、いつものように棚に上げて、個人的なコメントをば。前フリが長くなったので、「追記」で失礼。他の該当者の方にもコメントを伺ってみたいところ。


ご質問が資格の価値なので、単にLLMとだけ、という状態と、LLM+Bar Examに合格して資格取得、という状態を比較することが必要と思う。その他のLLMと形態が異なるので、それ以外の比較については、正直答えにくいし。

僕自身は、LLMに派遣してくれた企業が、「資格試験の勉強よりも早く戻ってきて働け」というスタンスの企業だったので、一旦帰国してから、別途受験勉強をして受験した。最初の受験と2度目の受験との間に転職したりもしたが。受験にしても資格取得についても、強制されたわけでもなく、自発的に(というほどエラそうなものではないが)行ったということになる。そういう物好きをしたので、上記の問いに答える資格はあるのかもしれない(と思うことにする)

そんなことをした理由はいくつかある。受験勉強をしていた時に意識していた(と記憶している)のは次の点。
  • LLMの一年間(厳密には一年無いけど)で学べることは限られている。アメリカ法の全体像を把握するには足らないという気がする。業務に関係のある単位はある程度取れるだろうけれど、そういう科目を取ると、公法系の講義までは取れない。そういうところも含めた全体像について学ぶには、Bar Examの準備の場でしかなかった。
  • 強制されないのはお気楽な一方で、周囲の日本人留学生達がやっていることをやらないというのは、正直疎外感があった。よって、そこまでやって他の皆さんと同じ、という感覚もあった。
  • これは特に転職してから思ったのだが、何も資格がないよりはあった方が、外人の弁護士に舐められないという点で良いのかもしれない。
  • これも特に転職してから意識したのだが、米国の訴訟においては、Attorney-client Privillegeが使いやすくなる。

このうち、最初の点については、次の2点を補足しておく必要があるのかもしれない。
  • 僕の場合、試験用に無理に詰め込んだ知識で、その後使う機会のなかったものは、既に綺麗に忘れている。自分の中に残ったのは感覚的なもので、そこにどれくらいの価値があるのかは、正直よく分からない。
  • Abitusのコースの場合、履修科目がBar向けになっているので、全体像という意味では、通常の通学のLLMよりは、理解が深まるかもしれない。もちろん、特定の分野については、逆のことが当てはまるかもしれない。この辺りは実際の講義次第だろう。
資格それ自体の価値については、2度目の転職においては、履歴書の華として、有利に働いたことは事実。後の2つの点については、まだ今のところ価値は実感できていない。

なお、もともとのご質問にあった
例えば、資格取得により、
 
・英文契約書をドラフティングするうえでの精度や完成度が圧倒的に上がり、
弁護士にレビューを依頼する必要がほとんどなくなった
 
・米国内での判例をサクサクと検索・調査できるようになり、紛争時の判断基準を
自社内で打ち立てることができるようになった
 
とか、そういったことが具体的な付加価値として生み出せるようになるのであれば、
非常に投資効果としては良いのかもしれない。
 
という点については、それはLLMで身につくかもしれない価値であると思うので、これまた、あちらの講義次第、かもしれない。
これらのうち、後者のうち、判例検索については、そもそも業務上westとかLexisとかを使っていないので、正直分からない。もっとも、会社で導入しているところでは、ベンダーが来てトレーニングセッションとかやってくれるのであれば、そこで十分使えば、あとはOJTというか「習うより慣れろ」で使い続ければそれなりに慣れるのではないだろうか。前者については、留学前よりは、法律英語を操る能力は向上したので、効果はあったと思うけれど、それでもネィティブの弁護士がレビューするのとは開きがあるのを実感する。

その一方では、通学でLLMに行く価値には、現地に、現地のロースクールに身を置くこと(外国の弁護士の作られ方を見ることができる)、一旦それまでの職場から物理的に切り離されること、他の同様な立場の人と、それまでの属性を抜きにして、留学生として同じ立場で付き合う機会があること、等々があると思う。その辺があまりないということは、オンラインのデメリットかもしれない(時間と場所の面でのフレキシビリティというメリットの大きさも重要だけど)。

…と、とりとめのない話になったけど、お答えになっていると幸いです。

一番最後に、既に指摘があるが、仮にLLMとBar Exam対策をオンラインで済ませるとしても、試験のために渡米は必須である。CAの場合は、NYと違って面接等のために、試験とは別に渡米する必要はない(Cal Bar受験日記の記載による)としても、1度は渡米しないといけないし、MPRE(倫理の試験)を別に受けるとなると2度は最低でも渡航が必要。MPREは、Bar Eaxmと一緒に受けるとなると滞在日数が長くなるので、仕事の合間に時間をやりくりするのが大変になる。ハワイでもグアムでも受験可能だし、試験が年3回とあるので、受験のタイミングを別にするのもひとつの手かもしれない。


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この記事へのコメント

1. Posted by 臥竜窟   November 02, 2010 16:23
>dtk様
具体的なお話を提供していただき感謝いたします。
(意識的にネタ振りをしたとまではいかずとも、今となっては無意識的にdtk様のご回答を期待していたのかもしれないと思いつつ…)
dtk様が実感されている「転職に有利に働く」というところは、私としても大きなメリットだと感じています。もちろん、転職においては本人の能力が一義的に重要ですから、本当に資格が有利に働くのかどうかはケースバイケースなのかもしれません。ただ、米国弁護士資格がそれに不利に働くということは基本的にはないでしょう。
それを目的にするのは「利にさとい」実利的な動機だと思われるかもしれませんが、「転職に有利なものを持っている」人間のほうが、そうでない人よりも、社内に対してのコメントや対応においてよりシャープな対応がしやすいような気もいたします。少なくとも、「俺はこの会社にいるしかない。」という立場ではシャープさに欠けるように思います。(まあ、これもその人の性格次第かもしれませんが)
何やら色々と考えると、私が米国弁護士に興味をもつことの潜在的な意識には、体系的な知識取得などよりも、そういったイザというときに少しでも頼りになる精神的なものを求めていることがあるのかもしれません。そんなことばかり考えずに、日々の仕事に精進すれば良いのかもしれませんが、何か転職等をせざるを得ないような事態が今後の人生で起きた際、きちんと準備をしておきたいと考えてしまうのはやはり仕事柄のせいなのでしょうか。
もう少し自己分析が必要ですね。色々とご参考になる内容ありがとうございました。
2. Posted by dtk   November 03, 2010 13:02
臥竜窟さん、ご丁寧に返信をありがとうございます。
こういうご時世だからこそ、頼れる何かが欲しいですよね。他人のリスク管理をしている法務が、自分のリスク管理に甘いというのも如何なものかという気もしますし。
それに社外に出ても通じるものがある方が、踏み込んだアドバイスがしやすいような気が、僕もしています。
と、言ってみたものの、僕の場合、たまたま資格が多少役に立ったような気がしているものの、費用対効果とか色々考えると難しいところがあるのも事実かもしれません。肩書きが役に立つという面があるのは否定しませんが、肩書きだけでは意味が無いという面も有りますので…。

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