三菱樹脂事件の判例を読んでみた素朴な疑問:判決文の公開

August 20, 2012

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2012年 10月号 [雑誌]


例によって印象に残った記事の感想を順不同で。コメントの量が長くなっていることから分かるように、個人的には本号は「ツボ」にハマる感じの記事が多かった。

その中でも、この号では、やはりインハウスローヤーの一連の記事が一番興味深かった。
特に無資格の法務部員のアンケート(僕だって日本法上は資格が無いのである意味このカテゴリーに含まれ得るわけで…)は、なるほどと思うところが多かった。ただし、このアンケートの対象者(サンプル数が少ないため、なんとなく誰に話を訊いたのか、特定できそうなのはさておき)の方々はおそらく、現時点で法務の担当者についての人事権を有している方々ではないだろうから、当事者の声もそれ自体貴重だと思う反面、そういう人事権者の方々の声も聞きたいところ。
インハウスに入ってミスマッチで辞められた方の声も、なかなか表に出にくい話なのではないかと思うので(内容自体は、個人的には驚きはなかったけど)、これも貴重ではないかと思う。企業側もご本人の側も、もっと目的と優先順位の明確化が必要で、そのための相互理解がまだまだ足りていないということなのかもしれない。企業の法務の実態についての生の情報もまだまだ出回っている量がすくないということもあるのだろう。


個人的にその次に「ツボ」だったのは、ビジネス保険の活用と法的リスクの記事。事業上のリスク管理のツールとして、契約書と保険を相互補完的に使うというのは、結構大事なことではないかと思っているのだけど、そのための保険の使い方について、日本電産さんの請求時の事務処理の話も貴重だけど、付保時の工夫とかについて、もっと突っ込んだ話が読みたい所。この辺についてはなかなか適切な情報がないように思うけど、それは、記事にあったとおり保険屋さんへの依存度が高すぎるからなんだろう。個々の条項の企業側からみた使い勝手(例えば、保険事故が起きた時の処理について、保険会社の全面的な指示に服するよう義務付けられると、自社のクライアントにも被害が出ているようなケースでは、保険会社の指示とクライアントへの対応が整合せず、結果として保険請求ができなくなる、とか)とか、それを踏まえた保険の付保の仕方について、企業側の担当者または企業の代理人として保険屋さん相手に闘った弁護士さんのコメントがある本があったら良いと思うのだが…。

不祥事対応の4つの視点、についても、個人的には、錯綜しそうな状況への対応の仕方が、うまくコンパクトにまとめられていて、対応の抜け・漏れを防ぐためのチェックリストとしても使えそうな気がしていて、良いのではないかと思う。パニックになりやすい状況なので、シンプルなのは重要だと思う。

第1特集は、ファーストサーバーの件に限らず、データ消失一般に関する法的な議論のまとめとして、わかりやすくてよかったと思う。個人的には、ファーストサーバーの件で、結果的に「重過失」とは認めない第三者調査委員会の報告に対して、裁判例をもとに、プログラムの瑕疵の重大性とシステム変更手順のルール違反の重大性を併せて、全体として重過失に該当するという主張を行うことも考えられるという指摘は、なるほど、と思ったところだった。
また、ベンダ各社の法務の方々のコメントも、それぞれの目のつけどころが、興味深かった。サイボウズさんのコメントを見て、ユーザー側としては、やはりしっかり説明を聴いて、リスクとコストのバランスを十分に考えるところが重要なのだろうと思った。

第2特集についても、ビッグデータという単語が飛び交っているものの、何が何だかわかってなかったので、こういう形で関連する法的な議論のまとめがあると、タイムリーで良いと思った次第。ミログの件の記事については、なんとなく、ミログの弁護をしているかの如く読めたのが若干気になったが、かの会社の弁護というよりは、むしろ、この手のビジネスを潰してはいけないという危機意識の現れなのだろう。僕自身はB2Bの業界にいて、この手の話題には1消費者、1ユーザーとしてどう対応するかということの方が重要なのだろうが、その辺は、もう一度読んで考えてみる必要がありそうだ(とりあえずT-pointカードは作らないことにしているが…)。

ベトナムの紛争解決の記事は…結局は、国外で片がつかないなら、国内で仲裁を頑張ってみましょう、ってことになるのだろうが、やはり不透明感が消えないように思われる。仲裁判断の承認後の強制執行のフェーズがどうなっているのか、興味があるのだが、その辺は、記事に書けるほど、実務が固まっていないのだろうか。万事発展途上ということで、やむを得ないのかもしれないけど。


最後は例によって本家から目次の引用

[第1特集] データ消失の法的責任と実務対応

データ消失のリスクを低減する方法 サービス選択時にユーザがすべきこと

北岡弘章 弁護士・弁理士
クラウドサービス等のトラブル対応 損害賠償請求に向けて

上山 浩 弁護士・弁理士 / 小川尚史 弁護士
ベンダ各社に聞く ファーストサーバ事件の影響とリスク対応の実務

■ データ消失事故のリーディングケースとして要注目

データセンター事業者 法務担当者



■ 重要さを増す サービス選択時の情報提供

石渡清太 / 辻村千尋 サイボウズ



■ 紛争を早期解決に導く マネジメントの重要性

IT企業 法務担当者


[第2特集] プライバシー情報の利用可否をどう判断するか
ミログ第三者委員会報告書から考える プライバシー情報 ビジネス利用の問題

達野大輔 弁護士
ビッグデータ活用とプライバシー保護の調和

中崎 尚 弁護士
ライフログ時代における 法規制のあり方 識別子となる「番号」の法的性質

鈴木正朝 新潟大学大学院実務法学研究科・法学部教授

[Focus] 最新 インハウスローヤー事情
インハウスローヤー在籍企業の現状とトレンド
法律事務所からインハウスへの転身

■ Case_01 NHN Japan

■ Case_02 クックパッド
弁護士にとっての企業への就職・転職

西田 章 弁護士
企業とインハウスのミスマッチはこうして起こった

企業側の声/弁護士側の声
法務担当者に聞く インハウスローヤー増加の影響


INTERVIEW
グループを下支えする持株会社としての目配りとサポート

杉村豊誠 日本電信電話 総務部門 法務室長

[特別企画] ビジネス保険の活用と法的リスク
ビジネス保険契約のチェックポイント

嶋寺 基 弁護士
[Interview] タイ洪水後の保険金請求を経験して

日本電産  河井昭夫 法務部 ゼネラル・マネジャー 弁護士 / 佐藤貴郎 法務部 マネジャー

実務解説
ベトナム企業との取引における紛争解決手段

西垣建剛 弁護士 / 和田卓也 弁護士
米国特許法改正 よりトライアルに近づいた審査手続

ライアン・ゴールドスティン 米国弁護士


OPINION
企業法務を担う人材と法科大学院教育

大橋洋一 学習院大学法科大学院教授


Inside Story
JASRAC帝国崩れず、独禁法問題は長期戦に

瀬川奈都子 日本経済新聞社 法務報道部

連載
実務解説

不祥事対応に求められる4つの視点
三谷和歌子 弁護士
企業会計法Current Topics

米国におけるIFRS採用の検討状況
弥永真生 筑波大学大学院教授
World Legal & Business Guide

ミャンマー
関口智弘 弁護士 / 勝山正雄 弁護士
Global Business Law Seminar

中国のリーガルシステムと企業法務(下)
平野温郎 三井物産 法務部(元・駐中国総代表助理)
これまでの「交渉」の話をしよう

ドルビー・システムの特許ライセンス交渉と三方一両損
松田 實
牛島信のローヤー進化論
[Information]リスクを探せ!英文契約書の読み方
Pick up! セミナー情報
Movie/Art/Book
編集後記・次号予告




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