いろいろと一日条項対訳 英文契約リーディング / 長谷川俊明 (著)

June 09, 2012

債権譲渡登記事項証明書が来たときの対応:部品メーカー法務編

何のことやら。

昨日某先生のお誘いで、某所で喋ったのだが、喋ろうとしてメモしたことを、ベースに、更に加筆した。なお、こちらの素性の特定につながりかねないところは適宜処理(何の?)していることを付言しておく。


サプライヤーについて上記証明書が来た場合の第三債務者側としての対応がお題。かつて、受領したことがあったので、その時こんな対応をしたってことの記録。一例なので、そのつもりでご覧あれ。

まず念頭におくべきは、当たり前のことかもしれないが、当該サプライヤーがつぶれるかもしれないってことだと思う。つまり当該サプライヤーから供給を受けていたモノ(またはサービス)について供給が止まる可能性があるということ。債権譲渡登記とか受けるような場合、要するに「死亡フラグ」が立っているということが多い(僕が対応したケースでもそうだった)わけで、個別の債権譲渡の問題よりも、継続的に何らかの取引関係がある相手については、「死亡」がどういう影響をもたらすか、の方が重要になることが多いと思う。

(ちなみに、以下の話とは直接関係しないが、今回のケースでは、譲り受け人側のサイトを見たところ、こちらに譲渡の通知をしてきた時点で、当該サプライヤーに対する債権の回収不能について決算修正をして証券取引所への開示もしていた。譲渡登記自体はその半年以上前だった。決算修正とかがすぐにできるはずもないので、要するに事前にXデーに向けてシナリオが準備されていたということなんだろうと判断した。)

件の通知はこちらの購買担当に届いて、それを転送してもらったのだけど、その際に次の諸点を順次確認した。いっぺんに全部確認すべきだろうが、すぐに思い至らずに何回かに分けて訊いたのが痛い所(まあ、実害はなかったのだが)。
  1. そこから何を買っているのか?
  2. 買ったもの(またはサービス)はこちらの内部で何に使っているのか?
  3. 全く同じもの(またはサービス)をほかから入手可能か(当該サプライヤーが単に商社機能しか有していない場合は、その調達元に当たれないか)?
  4. 前項について不可能な場合、同等の代替品(またはサービス)を入手できないか?
  5. 仮に代替品(またはサービス)への切り替えを行う場合、こちらの会社の得意先に対する何らかの対応を要するかどうか。
  6. 上記とは別に、このサプライヤーから供給を受けているのがモノの場合、そのモノの買いだめは可能か?
    (大きなモノだと、保管場所があるか、という問題があるし、変質の可能性があるために、長期間こちらで保管することが、設備の関係でできないというようなモノではないのか)

このような事案だと、対象物(またはサービス)について、代替のものへの変更が必要になるケースが多いのではないかと思うのだけど、そのプロセスが時として大変なことがある。こちらの会社から顧客に供給しているモノの素材などが関係する場合、そのモノの品質に影響が出る可能性があるから。

メーカーでよく言う、4M(Man/Machine/Material/Method)の変更に該当する場合、当該製品を納入している顧客への連絡が必要になる、または、変更に際して当該顧客の承認を取る必要が生じるケースが出てくるのだ。当該顧客がこちらの部品を買って、コンポーネントにして、更にその先の顧客に納入しているような場合は、その顧客の顧客の承認まで、必要ということもありえない話ではない。これらについては、販売基本契約にその旨の規定があるか、それに付随する品質保証協定書で規定する場合もある。規定上は通知だけ、かもしれないが、実務ベースでは承認を取る必要がある、という形になっていることもある(承認がないと発注が来ないということもある)。

場合によっては、切り替えに際して、テストが必要となることがある。顧客が品質にうるさい場合、そういうことが必要になる。このテストには1年とかそれ以上かかることもある。こういうテストがあるようなモノの供給の場合、自社のサプライヤーの部品が供給できなくなったから、部品変えますとは簡単には言えない。BCPなどの観点から、当初からその部品について複数のソースから供給を受ける形を取ることもありうるが、そうすると、前記のテストに要する時間が増えることになる。並行してテストを実施すれば時間が倍になるとは限らないが。

そういうテストがある場合、切り替えが認められれるまでの間をどうつなぐか、が重要になるはず。その間に必要になる分、そのモノを一発で買ってしまって在庫でおいておくことも一つの案だろう。もちろん、いつでもできる話ではなく、資金面で買えるだけではなく、時間の経過により変質しないかとか、保管の場所、設備(モノによって、保管に専用の設備が要るものがあるから)があるかというような条件が整う事が必要になるだろう。

僕が体験したケースでは、対象物は工場の特定のラインの製造設備のメンテナンスツールで、当該ラインについて使わなくなることが既に決まっていたので、それまでの間に使うと思われるそのモノを買いだめすることで対応した。メンテナンスツールで製品の材料とかでないので、それ以上の対応は不要だったし、金額的にも高いものではなかったし、普通に買い置きが可能だったので、大騒ぎをしないで済んだ。ちなみに、支払いは譲渡先に行った。当該サプライヤーとの間での取引基本契約上は債権譲渡特約があり、こちらから承認すれば譲渡可能だったので、特約の効果について争う費用対効果の問題を勘案して(取引量も少なかったということもある)、承認を出した。


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