歩いて帰ろう

May 06, 2012

体系アメリカ契約法 /平野 晋 (著)


GWの私的課題図書だった…が、GWほぼ全部を使って漸く読み終わったので、感想をば。値段も張るし、相当個性の強い本なので、万人にお薦めできるかというと、若干躊躇するものがある。ただし、日本語で書かれたアメリカ契約法の本としては、他にないものがあるので、後述の意味で、読む価値は十分にあると思う。

企業法務時代にLLMに留学して、その後企業を渡り歩いて、そこからアカデミックに転じられた著者によるアカデミックな部分と実務とを架橋することを目指して書かれた本。600p超の分量がある(それでも、ドラフティングに関する部分は割愛され、後に「国際契約の“起案学”」の一部となったようだが)。契約書の条項(特にいわゆる一般条項)について契約法上どうあるべきか、というところまで丁寧に日本語で説明してくれているので、英文契約の審査、または、ドラフティングに従事することを前提に読むアメリカ契約法の本という意味では適切という見方が可能だろう(逆に、樋口先生のアメリカ契約法の本でカバーしている範囲は、逆に、1Lのロースクールの授業で扱う範囲に近い。LLMに留学した際に1LのContractsの授業は受けたが、ドラフティングに関する話は一切なかった)。かなり詳細な説明で個人的にも勉強になることが多かった(最初の勤務先で、prevention theoryとか、collateral agreementの議論が出てきて、当時調べても日本語の資料がなかったのだけど、その辺りにも触れられていて、印象的だった)。

その一方で、かなり個性の強い本であることも付言しておく。「国際契約の“起案学”」とも共通するが、スタイルとしてはアメリカの契約法の本、そのまま、という感じで、アメリカの契約法の本の和訳にも見まごうばかり。脚注が多く、それも大半がネタ元の指摘というのは、裏がとれて便利かもしれないが、煩すぎるという気がしないでもなかった(その割に索引は今ひとつな気がするのがなんとも…)。原告をπ、被告を⊿、契約をK、と表記するのも、慣れても違和感が残るし、この種の本で使うのが適当とは正直思わない。そんなこんなからすると、正直読みやすくないという印象が残ったのも事実。


以前、英語の契約書の読み書きの能力についてネタにした際に、次のように書いたことがあった。

残りの英文契約の作成、という点についてだけど、言語能力以外のアメリカ契約法の知識とかをどう養うかという話は、脇へおいて考えてみよう。そもそもその2つを切り離して考えることができるのか、ということからして疑問があるが、先に進めないから、いったん可能であると仮定するし、仮に分離可能として、そちらの能力を、留学とかなしにどのように養うのか、というのも個人的には興味があるが、その話も範囲外とする。

(強調は今回加えてみた)

日本語で、アメリカ契約法について学ぶということを考えた場合、この本を使う、というのはおそらく適切なのだろう。英語で学んだ方が良いかもしれないが、英語で学ぶのは英語の能力がボトムネックになって進歩が遅いという可能性があるので、日本語の資料があれば、それに拠るほうが速いという議論はありうるだろうし、この本がそういう用途に使われるのは、適当ではないかと思う。

とはいえ、分量も多いので、いきなりこの本から読むと、全体像も見えにくくなりそうなので、お薦めしにくく、寧ろ、樋口先生の本を読んでから(いわゆるバーゲン理論については、「契約の再生」の前半部分を補足資料として読むのもアリだろう)、この本に行くというのが、適切なのだろう。

また、ドラフティングについては、日本語では、既に書いたように、平野先生の本に行くとか、中村先生のキーポイントシリーズ(作成、修正)に行くとかするのが良いのではないかと思う。


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