web魚拓It was 40 years ago today...?

June 06, 2007

裁判員制度についての素人考え

いささか古い話だが「おいおい」と思った記事があったので、素人考えを書いてみる。そもそものきっかけは 「ヤメ検」弁護士の有名ブロガー落合弁護士のところの記事経由で見た新聞記事

地裁の前田順司所長、地検の福嶋成二検事正、弁護士会の田中啓義会長の奈良法曹界のトップが、裁判員制度について参加者と質疑応答をかわした。参加者からは「膨大な裁判資料を読まなければならないのか」「判決後、恨みを買って仕返しされるのではないか」などと率直な質問が出た。これに対し、3者がそれぞれの立場から「分かりやすい資料を作成する」「危害を加えられたら捜査する」などと回答した。


裁判員制度を詳しく知っているわけではないが、この中の「お礼参り」に対する対応についてのコメントはひどいのではないかと思う。極端な例を考えれば、裁判員をした後で「お礼参り」で殺されたりしたら本当にやられ損ではないか。少なくともそのリスクがゼロであるとは、上記のような発言からは読み取れない。他人事モードも甚だしいと思う。


裁判員制度で裁判員をするということは、最悪のケースを考えれば(これより悪いケースだってあるかもしれないが、思いつく範囲で)、


  1. 個人的な都合は無視されて、来ないと罰金とか言われて、呼び出されて:
    企業で制度上有給をくれるところもあるだろうが、全ての企業で適用されるわけでもないだろうし、そういうところにおいても、仕事上の大事な局面において、「その場にいない」ことが、後々で自分にとってマイナスに(卑近な例で言えば人事考課だろうが、それ以外にもあるだろう)作用することはそれほど難しくないと思う。


  2. 少ない手当てで: 受ける負担からすれば、一日1万円とかでは少ないだろう。プロでない人にプロ以上の負担を押し付けるのだから、もう一桁高くてもおかしくないのではないか。


  3. 長期間拘束されて: 大規模なものは集中審理とか言っても、最低でも1週間とかかかるだろう


  4. 訳のわからない話を沢山聞かされて:複雑な事案もあるだろうし、そうなるとどうしても説明が長くなってしまうだろう。聞かされているだけでも苦痛になるかもしれない。

  5. 時には「重い」ケースに割り当てられたり、「グロい」ものを見せられてトラウマとかになったりして: 司法研修とかその後の実務経験で慣れている人ならいざ知らず、そういうものに慣れていない人からすれば、結構心理的に大変だろう。個人的な経験では大学の法学部で法医学の授業で司法解剖とか見たけど、気持ち悪くなった。似たようなことは生じうると思う。有給休暇とか取って仕事を休んで行ってPTSDとかなられた日には、勤務先としてもやってられないというところだろう。


  6. 挙句の果てに、こちらの言うことを無視されて 裁判官が中に入って討議するようだから、裁判官の権威とか、他の声の大きな人間に押し切られる可能性だってあるだろう(筒井康隆「12人の浮かれる男」とか思い出すのだが)。評議がまとまらないと多数決のようだし。

  7. うっかりすると裁判についてマスコミに追われたりして:「夜討ち朝駆け」とかされたら落ち着かない 。

  8. 最後に後でお礼参りで殺される:殺されても国が責任と取ってくれるわけでもなさそう。国家賠償法とかが適用されるのかな?


と、こんなリスクを負うということになりかねない、のだろう(全部が全部そうなるわけでもないのはもちろん分かっているが)。 一番訳がわからないのは、この制度が「良いこと」として扱われようとしていることだ(もちろん反対運動があるように、問題と思っている人も相当数いるようだが)。自分と縁もゆかりもない刑事事件なんてのに無理やり巻き込まれて、上記のような目に合わされかねないような制度が、良い制度なわけがないと思う。裁判所にしても、検察にしても「訳の分からない制度に巻き込んですみません」というスタンスがあって然るべきではないかと思う。「高い金払っているんだから、素人を煩わせずにきちんと解決してくれ」と思う方が普通ではないのか?

 と、まあ書いてみたが、wikipediaの「裁判員制度」のところに上記のような懸念のいくつかについては書かれていた。それでもこういう制度をやろうとしているのがやはり理解に苦しむところだろう。 こうなると罰金を払って拒否するか、事前のインタビューで排除されるように意図的にヘンな応対をするしかないのだろう(それも一定程度しか有効でないが)。

僕は今シンガポールにいるから「対岸の火事」モードで見ているけど、巻き込まれないことを心より願うばかりだ。


このエントリーをはてなブックマークに追加

トラックバックURL

この記事へのコメント

1. Posted by bun   June 06, 2007 09:21
確かに酷いですね。あまりの酷さに苦笑してしまいました。裁判員制度に限らず一般にそりゃ危害が加われば捜査しますよね。ということは、新しいことは何も言っていないのと同じであり、質問を全く無視したのと同じ、ということですよね。自分が納得していない仕組みや制度についていいや説明させられている人間の返答という気がしました。
この制度についてはアメリカの悪しき模倣である、という印象と、刑事裁判が実際ちゃんとなされていないので本当に一般市民の参加が必要になっているのかなという印象と、2つもっていて揺れています。前者ならやめてもらいたいです。
2. Posted by dtk   June 07, 2007 01:53
bunさん、いつもどうもです。
ご指摘の2つの面の両方があるのではないかという気がしています。いずれにしてもメイワクな話だと思いますです。この程度のことしか言えないこと自体、制度の機能不全の一つの証左なのかもしれません。
今後とも一つごひいきに。
それでは。

コメントする

名前
 
  絵文字
 
 
web魚拓It was 40 years ago today...?