最近の何だか(2013年11月はじめ)人間ドック

November 08, 2013

国際的法律文書の作成―英文契約書を中心として / 中島暁 (著)



漸く一通り目を通し終わった。メーカー法務OBの手によるもので、グローバル化の中で、英米以外の国の人が英語を使って契約書などの法律文書を作成し、それを運用する際の注意事項の解説が興味深い。
いろいろ細かいところで気になるところはあるものの、ある程度書物も読んで、英語の法律文書を読み書きするのに心理的抵抗がなくなって、一定程度の文書が読み書きできると思えるようになったという感覚があるレベルより上のレベルの人が、さらに一歩前に、レベルを上げるうえで有用な本、というところだろう。ある程度英文での契約書その他の法律文書を読み書きできるようになった人向けという印象で、ある程度実務経験がないと読んでも理解しにくいのではなかろうか。早稲田の法学部での授業でのテキストに基づいているようだけど、内容はすばらしい反面、ビジネス経験のない学生さんにこの内容がどこまで伝わるのかはやや疑問。
その一方で、僕にはよさげ、というか読みながら勉強不足が刺さる感じ。ベテランの引き出しの多さを堪能するというか、教えを乞う感覚で読むのが良いのではないかと思う。

参考になった指摘をいくつかメモ(一方でlaw of conflict of lawsをめぐる一連の話は正直難しくてついてゆききれなかった。無念。)
  • 日本語ー英語間でも似たような英語がある際に、厳密にいうとあるはずの差異を無視していると落とし穴にはまる危険があることも示唆も有益かと。消滅時効とstatute of limitationとか相殺とset-offとか…。
  • 日本の調停とアメリカのmediationの違い:前者は合意がまとまれば民事調停法により合意書面に執行力があるが、後者はそういうものがない、というのは、意識したことがなかった。
  • p128に、ユニドロア国際商事契約原則をそのまま準拠法として指定すると、オレゴン州ではそれが認められるとのこと。こちらをみると確かにそうなりそう...。
  • ネットでの通信などの発達により裁判管轄が不明瞭になり、契約にどういう法律が適用されるか予想しにくいからこそ、適用された法律により契約の各条項が無効とされたときに備える意味で分離条項は有用との指摘(p145)。
  • 米国企業相手に米語で交渉するときには、法律・契約用語にこだわり過ぎないほうがよい場合もある(p177)。程度問題はあるにしても、別に米国企業に限った話ではないような。専門用語を使わなくても済むときは使わずに済ませるのもひとつの手というのはどこでも一緒のような気がするけど。
  • 第2編の用語集も、似たような用語との異同・差異の説明が興味深い。best effortsについて英国・豪州と米国などの解説はへーって感じなのだが、判例とかを踏まえてのコメントの場合はその辺の出所を示してくれるとなお良かったかもしれない。optionとdiscretionは、選択してもしなくてもよい場合はdiscretionの方が良い、とかの指摘も興味深かった。




その一方で、細かいところではあるのだけれど、気になったところをメモ。
(普段はこういうものはあまり細かくメモは取らないのだが、あまりにも気になったのでメモしてみた)
  • p65のand, orの話は、「日本の解説書には全く書かれていない」とあるけどand/orも含めて「法律用語の基礎知識」/早川武夫の第4章(手元にあるのは初版H4:絶版になっていて某学祭での古本市で買った…でもむずかしくて読み通せていない)に一定程度記載があると思うのだが…
  • p87の、米国UCCでは、文字が不明瞭な場合は数字による旨明記がある、とあるのだが、UCCのどこか書いていない。こちらでさがした限りでは3-114ではないかと思うが…。それならそうと書いておいてほしい。

    § 3-114. CONTRADICTORY TERMS OF INSTRUMENT.
    If an instrument contains contradictory terms, typewritten terms prevail over printed terms, handwritten terms prevail over both, and words prevail over numbers. 

  • 仲裁条項についての解説は、踏み込んでいて面白い反面、この本だけに依存して、踏み込むのはリスクがあるように思うので、評価が微妙。巻末のサンプル契約の紛争処理条項で、仲裁前にamicable negotiationができかなったことを求めるのは、それ自体を入り口の争点にするような気がするから、リスクがあるような気がする。negoが不調に終わったわけではない、として、仲裁に入らないようにするというアプローチがありえるような気がするわけで。もっとも、どのみち入り口では争いになるから、それくらいは別にかまわない、ということかもしれない。ただ、それなら、そのリスクの所在は明示すべきかと。
  • p113で次のようにあるのは、ホント?という気がする。その逆のように感じるので。見ている範囲が異なるからかみ合わないのだろうが。

    このような特別の場合を除いては、特に民間企業間で国際契約を締結する場合には、一般に裁判管轄を特定して記載する場合はそう多くはないと考えられる。

  • 準拠法について例えば日本だったら、law of Japanとか書いているのだけど(p117等)、laws of Japanではないのか?と疑問。手元にあるworking with contractsの2nd ed p246ではthe laws of the State of __となっていて複数だし、個人的には各種の法をまとめて、という意味では複数なのかと思っていたので気になる。Ken Adamsのa manual of style for contract drafting 2nd edのp365でもlaws of ...となっているが…。
  • p138契約書の書式のナンバリングがおそらく違う。8.01の下につくなら、8.1.1ではなく、8.01.1のはず。なんか変。
  • p146 UCCに完全合意条項類似の概念があるといいつつ、それがどこにあるのか書いていない。2-202のことだろうか?
  • p153以下の個別契約類型ごとのコメントについてはもっと突っ込んだコメントがほしかったような。
  • 全体を通じて、脚注が字が小さくて読みにくいし、脚注に重要なこと長く解説するのはいかがなものかと。
  • 巻末のライセンス契約のひな形については、一部省略はいいけど、何が書いてある部分を省略しているのかもうちょっと説明があったほうがいいような気がした。


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dtk1970 at 00:52│Comments(0)書籍 | 契約法務

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